2016年4月から国内でも全面的に自由化される電力の小売り。このエネルギー業界の“一大イベント”のインパクトを理解するには、自由化で先行する欧州の動きが見逃せない。そこで起こったことをキーワードで整理すると「再生可能エネルギー」「ビッグデータ」「スイッチング(事業者の切り替え)」の3つが浮かんでくる。日経BPクリーンテック研究所が2015年12月に発行した「世界電力小売りビジネス総覧」で明らかにした、これら3つのキーワードを解説する。

 第1の「再生可能エネルギー(再エネ)」を代表する動きが、ドイツ・ハンブルクを拠点とするグリーンピース・エナジー(Greenpeace Energy)である。100%再エネによる電気とガスの両方を顧客に提供している。同社は環境問題などで国際的に活動を行う非政府団体(NGO)であるグリーンピース・ドイツが設立したエネルギー事業者である(図1)。

図1 独Greenpeace Energyのオフィス。グリーンピース・ドイツと同じビル内にある
図1 独Greenpeace Energyのオフィス。グリーンピース・ドイツと同じビル内にある
(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 グリーンピースは世界40カ国以上に事務所を持っており、エネルギー問題でも再エネの普及を呼びかけるなどの活動を行っているが、エネルギー事業者を設立しているのは現時点でドイツだけである。このことは、ドイツのグリーンピース会員が58万人と全世界の会員280万人の約20%を占める一大勢力であり、ドイツにおける再エネの使用や普及が国全体で推進される大きなうねりとなっていることとも深い関係があると考えられる。

 グリーンピース・エナジーは、ドイツ国内で電気を11万1000件、ガスを1万1000件の顧客に供給している。その電源構成は100%再生可能エネルギーであり、大半は水力で他の発電事業者から調達している。自身でも子会社のプラネットエナジー経由で太陽光や風力の発電所の企画や建設、運用を進めている。プラネットエナジーは、ドイツ国内を中心に11カ所の風力発電所と3カ所の太陽光発電所を運用、その総出力は65MWに上る(図2)。

図2 独Greenpeace Energy傘下Planet Energyの太陽光(左)および風力発電所(右)
図2 独Greenpeace Energy傘下Planet Energyの太陽光(左)および風力発電所(右)
(写真:独Planet Energy)
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図3 独Greenpeace Energy広報担当のHenrik Duker氏
図3 独Greenpeace Energy広報担当のHenrik Duker氏
(写真:日経BPクリーンテック研究所)
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 同社が供給する電力のコストは、約26ユーロセント/kWh。この価格水準は「ドイツの平均的な電力のコスト25ユーロセント/kWhと比較してもそれほど高くなく、競争力がある」とグリーンピース・エナジー広報担当のHenrik Duker氏は同社の電力ビジネスに対する自信を示す(図3)。