はじめに

 これから全6回の予定で日本電機工業会(JEMA:The Japan Electrical Manufacturers’ Association)がまとめた提言書「製造業2030」の内容を連載で紹介する。「製造業2030」は、2030年の製造業の姿を描き、将来の製造業のあるべき方向性を示すことを目的とした報告である。

 IoT(Internet of Things)により製造業が革新する第4次産業革命の世界では、世界の企業や団体が連携し、互いの持つ技術を活用して、これまでになかったIoT製品やビジネスを生み出そうとしている。日本電機工業会は産業向けの電機製品、電力用製品、白物家電のメーカーを会員とする工業会である。第4次産業革命への対応方法を示したいという会員のニーズに応える形で、工業会の会員のみならず、大学や国内の関連の団体にも参加を呼びかけて、2015年8月に「スマートマニュファクチャリング特別委員会」(以下、委員会)を発足した。製造業2030はこの委員会の1年間の活動成果をまとめたものである(成果報告の全文)。

 製造業2030では、2030年の製造業の姿を示すとともに、ユーザーのニーズに応じてフレキシブルにビジネスを構築し、製造の組み合わせを替えるモデルである「FBM(Flexible Business & Manufacturing)」を提案した。FBMは、ドイツの「Industrie 4.0」などのモデルで、これまでは大きく取り上げられてこなかったビジネスをそのモデル内に取り込もうとする試みである。さらに、委員会の立ち上げ時には、現在からは見えない将来の製造業を描くために、グループディスカッションの手法を使って議論の範囲を広げ、製造業に影響するトレンドを分析する試みも実施している。

 本連載は、下記の6回構成を予定している。
・第1回(今回): 製造業2030の概要およびFBMについて
・第2、3回:2030年の製造業に影響するトレンドの分析
・第4、5回:将来の製造業
・第6回:製造業2030で示したFBMの具体化(2016年度末に公表する予定の第2回成果報告の予告編)

 将来の製造業であるスマートマニュファクチャリングでは、IoTが製造業へ適用される。IoTを活用することにより、ビジネス・イノベーション、プロセス・イノベーション、プロダクト・イノベーションの3種類のイノベーションが起こると期待されている。しかし、ドイツのIndustrie 4.0の活動ではビジネス・イノベーションに関しては大きく触れていない。将来の製造業を描くためにはビジネスの切り口が重要であるため、FBMではビジネス・イノベーションもその対象範囲とした。

図1 スマートマニュファクチャリング特別委員会のグループディスカッション
図1 スマートマニュファクチャリング特別委員会のグループディスカッション

 全体像を捉えることが困難な幅広いIoTによる変革を捉えるため、委員会では各方面から参加した委員が「ワイガヤ」スタイルのグループディスカッションを実施して、手探りの状態からスタートし将来のあるべき製造業の姿を描いた。このような検討は我が国で初めての試みではないかと考える。図1にグループディスカッションの状況を示す。

 図2は、将来の製造業に影響するトレンドを分析して、その結果をまとめた図である。この図に表示するトレンドの項目数を増やすために、トレンドを整理するための縦軸と横軸を作り、そのようなマップ内に生じる空白部分を埋める作業を実施した。

図2 将来の製造業に影響するトレンド分析の結果
図2 将来の製造業に影響するトレンド分析の結果
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 社会のトレンドを挙げることは比較的容易な作業であったが、技術のトレンドを挙げるためには幅広い技術の知識が必要となる。委員会のメンバーはほとんどが技術者だったが、それでも数多くの技術トレンドを挙げることは難しい。そこで、技術のトレンドをまとめたさまざまな文献を参考にした。それによって生産システムのトレンドを分類することが可能となり、図2の「2030年の生産システム」の円上に示すように「1.顧客価値の最適化」「2.製品設計の効率化」「3.製造設備構築の効率化」「4.生産運用の最適化」「5.プロダクトライフサイクルマネジメントの最適化」という5つのカテゴリに分類した。

 トレンド分析の後、2030年の将来の製造業はどのようになるかを検討した。図2の中心に2030年の製造業の将来の姿としてFBMを挙げて、図を完成させた。