日本電機工業会(JEMA:The Japan Electrical Manufacturers’ Association)がまとめた提言書「製造業2030」の内容を全6回の予定で紹介する本連載。前回に続き今回も、その核となるコンセプト「FBM(Flexible Business and Manufacturing)」を取り上げる。

 前回は、JEMAのスマートマニュファクチャリング特別委員会(以下、本委員会)がどのようにしてFBMという将来の製造業を表すモデルを考えるに至ったか、その経緯を説明した。今回はFBMというモデルから考える将来の製造業を実現するための課題について検討した内容を紹介する。

<これまでの記事>
「モデル」を持てば、製造業の未来が見えてくる(第1回)
“集合知”に基づいて、ものづくりの将来像を描く(第2回)
新技術・新工法がスマート化への道を切り拓く(第3回)
製造業の機能は、入れ替え可能な“部品”になる(第4回)

FBMとは何か

(1)FBMの定義
 FBMとは何かについて本委員会は「製造業2030」で次のように述べた。

 将来の製造業において、商品企画→開発・設計→生産→保守という一連の流れをプロダクトライフサイクルチェーンと呼び、調達→製造→物流→販売→サービスの流れをサプライチェーンと呼ぶ。視点を変えれば様々なバリューチェーンが描けるが、各機能の効率と精度が向上している2030年の製造業での重要なポイントは、これらのチェーン上で求められる価値、提供されるべき価値が組織やシステム間の壁を越え、リアルタイムに授受されていることである。

 生み出すべきソリューションは何か(ユーザへの価値)、何を改善したものか(設計による価値)、どのようにそれを実現するか(生産技術による価値)、納入後のサポートはどうするか(運用・保守面での価値)は短時間に判断・検証され、効率よく実行に移される。生産を含むこれら製造者のビジネス機能群がリアルタイムに、かつフレキシブルに生体の細胞のように働き、時にはビジネスモデルや機能の組合せをも変化させる。2030年にはこのようなFlexible Business and Manufacturing(FBM)が社会を支えている時代になると想定される。

(2)FBMを構成する球(機能)と板(基盤)
 FBMのモデルは図1に示すように、球で(ビー玉のように)表した製造業の各機能と、板で表した基盤(プラットフォーム)から成る。

FBM
図1 FBM
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 表1には、球で表される製造業の各機能を、サプライチェーンマネジメント(SCM)、エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)、工場のライフサイクルマネジメント(ファクトリーチェーン)の見方で区分して示した。バリューチェーンという考え方で製造業の機能を整理し、製造業の中にある各種の機能を挙げることができた。

表1 各種のバリューチェーンに表れるFBMの機能
各種のバリューチェーンに表れるFBMの機能
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 次にFBMの基盤が持つべき機能、要素、要件を表2にまとめた。FBMでは、製造業を構成する機能組織の要素をモジュール化し顧客と新たな価値を共創して、そのニーズの変化に自由に連携するエコシステムを示している。このエコシステムを支える仕組みとして基盤がある。

表2 FBMの基盤が持つべき機能、要素、要件
FBMの基盤が持つべき機能、要素、要件
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 FBMの機能を支える基盤が何かについては、2015年度の本委員会では議論を十分にするための時間が限られていた。表2の内容は検討の途中経過ではあるが、当委員会のグループディスカッションの中で挙げられた基盤の持つべき機能、要素、要件である。また、表2の左側の基盤(プラットフォーム)に示す図は、各機能から得られるデータがフィードバックされ、ECM、SCM、工場のライフサイクルマネジメントに基盤を通してフィードバックされることを示している。

 FBMの基盤が存在することにより、SCMやECM、工場のライフサイクルマネジメントにおいてモジュール化した機能が効率的に連携する。また、基盤は、ビッグデータや人工知能(AI)、あるいはサイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber Physical System)やデジタルツインのようなIoTを活用した新たな仕組みを持ち、製品が運用される時の外部環境や、運用状況を収集、蓄積し、運用状況に合わせて変化するサービス機能を実装する。ビジネスを継続するための手段として、人的なコミュニティ管理やガバナンス機能を持つことが必要であると考えられる。