日本電機工業会(JEMA:The Japan Electrical Manufacturers’ Association)がまとめた提言書「製造業2030」の内容を全6回の予定で紹介する本連載。前回は、製造業2030の概要およびFBM(Flexible Business & Manufacturing)について述べた。第2回となる今回から2回にわたって、2030年の製造業に影響するトレンドについて解説する。

 未来の科学技術がどのようになるか、これまでもさまざまな予測が行われてきた。今回は、2030年の製造業を予測し、将来の製造業を形作るためのシナリオを求めるために、JEMAの「スマートマニュファクチャリング特別委員会」(以下、委員会)における活動の中でトレンド分析を実施した。「IoT(Internet of Things)による製造業の変革に対して、電機業界や工業会はどのように対応するべきか」という委員会のテーマに対して、トレンド分析により委員会活動を前進させることができた。

 図1にそのトレンド分析のアプローチを示した。現在の製造業から2030年の製造業をいきなり予測するのは困難である。しかし、トレンドについて分析するのであれば、既に始まっている傾向や、将来的にほぼ確実に発生すると考えられる課題がある。これらのトレンドを分析し、その影響を想定した上で、現在の製造業から2030年の製造業へのシナリオを描くことは、実現可能なアプローチであると考えた。さらに、2030年の製造業の姿を描けば、現在の製造業とのギャップを分析することで、これから将来のためにどのような施策を打つべきかについて考えることができる。

図1 2030年の製造業に影響するトレンド分析のアプローチ
図1 2030年の製造業に影響するトレンド分析のアプローチ
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 以上のように考え、まずはトレンドと呼べる項目を数多く集めることを目標とした。前回紹介した通り、参加した委員が小グループに分かれて議論するグループディスカッションにより、社会のトレンド、技術のトレンド、将来の製造業などについて討論してトレンドを集めた。トレンドを数多く集めるためにトレンドを分類するマップを作り、マップ上で空白になっている部分を埋める検討も実施した。20数名の委員による、いわば集合知によって広く議論できたものと考える。

2030年の製造業に影響するトレンドの整理

 以上のような検討を踏まえ、2030年の製造業に関わるトレンドを整理、分類してトレンド図とした(図2)。政治、経済、社会のトレンドを収集することは比較的スムーズに進んだが、技術のトレンドを数多く集める作業は、技術に関する具体的な知識を幅広く要求される。そこで、文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「デルファイ調査」の結果なども参考として用いた。

図2 2030年の製造業に影響するトレンドをまとめたトレンド図
図2 2030年の製造業に影響するトレンドをまとめたトレンド図
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 図2に示した技術要素のうち、赤の太字で示しているトレンドは、委員会で重要なトレンドと考えたものであり、製造業2030の中ではそれらのトレンドについて解説している。トレンド図では、次の4種類の円でトレンドの種類を分類し、それらのトレンド間の関係を示している。

・外側の円 :政治、経済、社会のトレンド
・外側より2番目の同心円 :技術のトレンド
・四角の枠で囲んだカテゴリ :2030年の製造業の将来像に関わる5つのカテゴリ
・中心の円 :2030年の製造業の将来像(「製造業2030」第3章に内容を記載)

 今回と次回では、「2030年の製造業の将来像に関わる5つのカテゴリ」を中心に解説する。

政治/経済/社会のトレンドおよび技術のトレンド

 図2の外側の円の部分に政治(P:Politics)、経済(E:Economy)、社会(S:Society)のトレンドを示した。これらのトレンドが技術や生産システムに影響を持つ。また、外側から2番目の同心円に技術(T:Technology)のトレンドを示した。政治、経済、社会のトレンドが技術に影響を及ぼし、技術のトレンドが2030年の生産システムに影響を持つ。さらに、2030年の生産システムが技術や政治、経済、社会に影響を及ぼすことも考えられる。

2030年の製造業の将来像に関わる5つのカテゴリ

 2030年の製造業の将来像を次の5つのカテゴリに整理した。これらは、図2には四角の枠で囲んだカテゴリとして表示している。
1.顧客価値の最適化、最大化
2.製品設計の効率化
3.製造設備構築の最適化
4.生産運用の最適化
5.プロダクトライフサイクルマネジメントの最適化

 1.は製造業の目的のトレンド、2~4.は、生産システムの要素をより良くしていくトレンド、5.は全体最適のためのトレンドに当たる。1~5.とカテゴリに分けたが、5.の結果が1.に結び付くとして、図2では円環として示している。