新国立競技場に子孫の樹を

 ところで、9個の金メダルを獲得した日本には、9本の樫の苗木が渡りました。その苗木たちは元気に育ったのか、気になるところです。

 日本では唯一、三段跳びで優勝した田島直人選手が受賞した苗木の子孫が残っているようです(図1)。田島氏は苗を母校京都大学の植物園に寄贈し、その後グランドに移植されました。生育は困難を極めましたが、植物学者などの専門家の努力の末、20m近い大樹に成長しました(図2)。

図1 田島直人選手(ベルリン五輪走り幅跳び)
図1 田島直人選手(ベルリン五輪走り幅跳び)
日本陸上競技連盟編集「陸上日本」から。
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図2 京都大学吉田キャンパスにあったオリンピア・オーク
図2 京都大学吉田キャンパスにあったオリンピア・オーク
2004年当時。写真:京都大学
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 田島氏が亡くなったとき(1990年)、ドイツから世界に拡がったオリンピア・オークの中で生き残っているのは、“田島の樫”と米国に渡った2本だけといわれておりました。他の樫の行方は、ようとして知られておりません。

 先日、偶然20歳代から70歳代まで、7人の京大OBの方々にお目にかかる機会があり、田島氏の樫の印象を伺ってみました。ところが、どなたもこのエピソードをご存じではなかったのです。なにしろ五輪での優勝ですから、ノーベル賞受賞に劣らず大変に名誉なことです。もう少し認知されてもよいのではないかと感じました。

 田島氏の樫そのものは残念なことに2008年、害虫被害により伐採されてしまいました。でも、その種子から育てられた2世の樫の樹が、後輩たちの尽力により日本各地の田島氏ゆかりの地で脈々と成長しています。現在、何とその樹々を新国立競技場に移植しようという運動が、陸上競技OBたちの間で起こっているのです。

 ぜひとも実現させ、田島氏やディーム博士の努力と勇気とともに、古代から続く平和の祭典であるオリンピックの精神を未来へリレーできるように、2020年東京オリンピックが大成功に終わることを祈ります。