「陸上」という、すこぶる明快明瞭な闘い

 ご存じのように陸上競技(athletics)は、速く走る、高く跳ぶ、遠くに投げる、速く歩くなど、アスリートの基本的身体能力を競うものです。用具はほとんど使わず、勝負判定に審査員の主観や判断が入る余地はほとんどなく、計測器で測った結果によって一番速い、長いものが勝つ、すこぶる明快明瞭な闘いです。

 陸上競技には走種目を主体とし競技場のトラックで実施されるトラック競技、跳躍や投擲(とうてき)を主体としトラック内側のフィールドで実施されるフィールド競技、マラソンや競歩など競技場外の道路上に設定されたコースを走るロードレースがあります。さらにフィールド競技には、走り高跳び・棒高跳び・走り幅跳び・三段跳びなどの跳躍競技と,砲丸投げ・円盤投げ・ハンマー投げ・やり投げの投擲(とうてき)競技があります

* 日本陸上競技連盟の表記では「走高跳」「棒高跳」「走幅跳」「三段跳」「砲丸投」「円盤投」「ハンマー投」「やり投」と、送り仮名を付けません。

 ここでは、用具を使用することから、ものづくりの技術と関係が深いと考えられる投てき競技にフォーカスしたいと思います。論文など多くの資料を調べるとともに、机上の知識だけではなく、実態調査をしたいと考えました。

 とは言うものの、筆者はスポーツ好きではあっても、学生時代に授業以外では陸上競技の経験がありません。陸上競技用具の情報収集のための取材を一体どこにお願いするべきでしょうか。フルマラソンの名誉教授がおっしゃるには「学生のころ、マラソンのトランクスは“ニシ”以外をはいた記憶がない。当時、新宿歌舞伎町にあった店で購入していた」。このニシを探してみようと考えました。

 現在、ニシ・スポーツ(本社東京)は世界的な用具メーカーであり、製品はオリンピックをはじめとする国際大会で公式に採用されています。「1つの競技場をひっくり返したら、ほとんど全ての物がニシ・スポーツの製品であること少なくない」(同社)というくらいです。