規格は誰を守るものか

 「ヘルメット造りで重要な要件の1つに、国の規格があります。スポーツでいえばルールです。各国によってその基準は異なるのですが、規格に適合したヘルメットを造ることは、逆にメーカーを守ることにもなるのです。もし、ライダーが事故に遭って最悪の結果になっても、かぶっていたヘルメットが規格に適合したものであれば、メーカーは責任を問われません」。

 「だから一般論ですが、メーカーというものは規格を取得した時点で安心してしまい、それ以上を目指さなくなるのが常です。これは自らの成長をストップさせてしまうこと、すなわち死です。しかし、アライは、ずっとその先にあるものを探してきました。実際の事故においては、規格に合格していたヘルメットをかぶっているからといって、絶対に安全安心とは言えません。そこで守りきれないもの、残念な結果を極力減らすためにはどうしたらいいのか。いつもどんな時も、それが頭にあって離れることはないのです」。

生まれながらのヘルメットメーカー

 「この日本で初めてヘルメットを造り上げた人間を父に持った者の使命、まさに運命ではないかと思います。アライでなくて、一体誰がやるのか。アライでなければできない、唯一無二の存在であり続けたい。」

 先代社長は小学校しか卒業していないにもかかわらず、日本で初めて繊維強化樹脂(FRP)の帽体と発泡スチロールのライナーを用いた現在のヘルメットの原型を創り出し、かの本田宗一郎氏が2輪車を造るときに相談に来たという、まさにものづくりの鑑のような方でした。アライヘルメットは、日本のヘルメットの規格ができる前からヘルメット造りを手掛けてきたわけです。

 その方を父親として生を受けた理夫社長には、覚悟した人間の芯の強さを、取材中のどの瞬間にも感じました。