木地に載せた本物の落ち葉などの上にポリエステル樹脂を塗り重ね、鏡面塗装内に実物を埋め込んだ板「PIAXボード」。創業53年を迎えるピアックスが手掛ける技術だ。

 ポリエステル鏡面塗装は漆塗りのような雰囲気があり、職人が仕上げる技の産物ではあるが、漆塗りのように自然素材と手仕事を組み合わせる「工芸品」ではない。合成樹脂や合成塗料と機械を使って生産性を高めつつ精緻な仕上がりを目指す「工業製品」である。あえて工業製品から対極の位置にあるような、枯葉といった自然そのままの素材を取り込むことで素材に新しい光を当てた。

和紙を貼り込んだPIAXボードの板膳。漆塗り工芸品と似ていながら、精緻さや無機質なイメージも備える。この板膳は、東京都内の「こだわり」をテーマとした飲食店からの注文で作製したオーダー品。同社で経理を担当する女性が貼り込む和紙を選定してデザインを担当した。(以下、すべての写真:堀 勝志古)
和紙を貼り込んだPIAXボードの板膳。漆塗り工芸品と似ていながら、精緻さや無機質なイメージも備える。この板膳は、東京都内の「こだわり」をテーマとした飲食店からの注文で作製したオーダー品。同社で経理を担当する女性が貼り込む和紙を選定してデザインを担当した。(以下、すべての写真:堀 勝志古)
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朴葉に塗装を施した器は、前社長(現会長)が開発を始めたもので、器としての実用化を目指す。塗装回数を減らすなど、生産性の向上も検討している。上は未塗装の朴葉。
朴葉に塗装を施した器は、前社長(現会長)が開発を始めたもので、器としての実用化を目指す。塗装回数を減らすなど、生産性の向上も検討している。上は未塗装の朴葉。
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 同社は、もともとはピアノ塗装メーカーだった。国内大手楽器メーカーはもちろん、浜松市に集まる中小楽器メーカー向けの塗装を手掛けていた。その後、ピアノ生産量の減少に合わせて2005年にはピアノ向け塗装から撤退。以降は、富裕層向けの家具や高級店舗の什器といったオーダー品や、高額大型スピーカーなどの高級品向けの塗装を行っている。ピアノ向けから出発したが、装置に独自の工夫を施すことで大型製品にも対応できるようにした。今では3m近いウォールパネルなどの塗装も手掛ける。

右がポリエステル樹脂の塗布後、左が鏡面仕上げ後。表面に厚く塗布したポリエステル樹脂を削って磨くことで、ホコリや傷、表面の凹凸などがなくなり鏡面状になる。
右がポリエステル樹脂の塗布後、左が鏡面仕上げ後。表面に厚く塗布したポリエステル樹脂を削って磨くことで、ホコリや傷、表面の凹凸などがなくなり鏡面状になる。
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 ポリエステル鏡面塗装は、硬く光沢のあるポリエステル塗料を何度も塗り重ねた後、磨きをかけることで鏡面に仕上げる。大型製品などでは機械を使った研磨が基本。これも「工業製品」たるゆえんだ。

写真を貼り込む場合の工程見本。主に8つの工程を経る。具体的には、(1)下塗り(裏表2回ずつ)、(2)とぎ、(3)塗料などの中塗り(裏表1回ずつ)、(4)写真の貼りこみ、(5)クリアシーラーの吹き付け(裏表)、(6)ポリエステル塗料(裏表4回ずつ、表はさらに1回)、(7)研磨(ペーパー粗さを細かくしながら4段階)、(8)コンパウンドを使ったバフ磨きだ。塗りの回数や工程の順序は制作物により異なる。ポリエステル塗料のほか、ポリウレタン塗料を使う場合もある。
写真を貼り込む場合の工程見本。主に8つの工程を経る。具体的には、(1)下塗り(裏表2回ずつ)、(2)とぎ、(3)塗料などの中塗り(裏表1回ずつ)、(4)写真の貼りこみ、(5)クリアシーラーの吹き付け(裏表)、(6)ポリエステル塗料(裏表4回ずつ、表はさらに1回)、(7)研磨(ペーパー粗さを細かくしながら4段階)、(8)コンパウンドを使ったバフ磨きだ。塗りの回数や工程の順序は制作物により異なる。ポリエステル塗料のほか、ポリウレタン塗料を使う場合もある。
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機械を使った研磨の様子。作業するのは、会長(前社長)の小原敏夫氏。板膳を加工している。サンドペーパーを自動で回転させる機械を使い、重石を載せたパッドを使って少しずつ塗料を削って磨く。パッドは押し付けるのではなく、わずかに浮かせる職人技が重要という。
機械を使った研磨の様子。作業するのは、会長(前社長)の小原敏夫氏。板膳を加工している。サンドペーパーを自動で回転させる機械を使い、重石を載せたパッドを使って少しずつ塗料を削って磨く。パッドは押し付けるのではなく、わずかに浮かせる職人技が重要という。
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バフ磨きの装置。板膳の側面(小口)を磨く。磨く際に摩擦によって生じる熱をうまく逃し、熱によって塗料がボロボロになってしまうのを防ぎながら磨く作業だ。一般的な木製品はポリッシャーで磨く場合が多いという。金属加工のようなバフ磨きを行うことも、ポリエステル鏡面塗装の光沢を生む重要な工程だ。
バフ磨きの装置。板膳の側面(小口)を磨く。磨く際に摩擦によって生じる熱をうまく逃し、熱によって塗料がボロボロになってしまうのを防ぎながら磨く作業だ。一般的な木製品はポリッシャーで磨く場合が多いという。金属加工のようなバフ磨きを行うことも、ポリエステル鏡面塗装の光沢を生む重要な工程だ。
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バフ磨きを終えた板膳。つややかな表面に蛍光灯が映り込んでいる。
バフ磨きを終えた板膳。つややかな表面に蛍光灯が映り込んでいる。
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