物流を取り巻く事業環境の変容を語る上で米Amazon.com社(以下、Amazon)の存在は無視できない。近い将来、物流ビジネスへの本格参入を果たすことが十分に予想されるからだ。

 Amazonの成長戦略を推察するに当たり、AWS(Amazon Web Service)のビジネスモデルが貴重な示唆を与えてくれる。Amazonは世界最大のEC(E-Commerce)事業者であると同時に、実は世界最大手のクラウドサービス事業者でもある。そのクラウドサービスこそがAWSだ。

 AWSがAmazonの売り上げに占める割合はわずか7%に過ぎない。しかし、営業利益で見ると、その割合は41%にも上る。AWSは営業利益率23%を計上する超高収益事業なのだ。

 なぜこれほどの高収益とシェアを獲得できているのか。それはコスト競争力が段違いに高いからである。競合他社はクラウドサービスを提供するために専用のサーバーシステムを構築している。故に、その設備投資に準じた利用料を請求する必要がある。対して、AWSは自社のEC事業のために構築した巨大なサーバーシステムの“空きスペース”を他社に開放しているに過ぎない。クラウドという装置産業において、圧倒的規模の設備とECというベースカーゴ(事業の基盤となる安定した取扱量)を有するAmazonに太刀打ちできるわけがないのだ。

 物流拠点はどうか。同社は現在、物流拠点の自動化を大胆に進めている。前回述べたように、2012年にロボットメーカーの米KIVA System(現、米Amazon Robotics社)を買収し、既に5万台超の倉庫ロボットを配備した。2015年からは“棚から目的の商品を取り出す作業”を競争するロボットコンテスト「Amazon Picking Challenge」も開催するなど、物流拠点の装置産業化を他社に先んじて実現しつつあるといえよう。

大手荷主が強力なライバルに

 Amazonが保有するのは物流拠点だけではない。米国では、既に自社トラックの運用を開始。2016年にはリース契約で航空貨物機も調達した。一部地域では船舶の運用(NVOCC:Non Vessel Operating Common Carrier)も自前化している。ドローン配達の実現に向けては、開発機能さえも内製化した。そして、EC事業を通じて培った、各地域からの注文をAIが予測して事前出荷する「予測出荷システム」を自社で開発・運用している。

 つまり、同社は物流サービスの提供に必要な設備を、並の物流会社以上に持っている(図8)。しかもECというベースカーゴがあり、その上で物流の装置産業化を先駆的に進めている。それはAWSと同様の事業環境を自ら創出しつつあるということなのだ。遠からず、その「空きスペース」を他社に開放するだろう。それは、既存の物流会社からすれば、有力な荷主が突如として強力なライバルに転ずることを意味する。

図8 Amazonの物流会社化
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図8 Amazonの物流会社化