飛行船の行く手には嵐が立ちはだかり、後ろには火の手が迫っていた。暴風と立ち込める煙で視界は遮られている。このまま飛び立たなければ火に飲み込まれるのは時間の問題だ。しかし、飛び立ったとて嵐の先に何があるかはわからない。過去の航空履歴をいくらたどっても課題への対策は見つからなかった。船長は離陸ボタンを押すべきか判断を後ろ倒しにしていた。クルーは周囲の状況に絶望・意気消沈し、船内は暗い湿った空気で覆われていた。

 突然、1人のクルーが声をあげた。「嵐を乗り切ったら次はどこを旅しよう」こんなタイミングで何を言い出すのか、乗り気ではないクルーもいたが、1人また1人と想いを口にしていった。操縦士、見張り係、調理係、普段は異なる業務を担当し関わることのない者同士が知恵を出し合うことで、生存の糸口が見えてきた。重たい空気はいつしか熱気に変わり、脱出に向けて皆が真剣に取り組んでいた。

 話し合いが始まってから15分足らずで離陸が決まり、レーダーに目的地を入力した。乱気流に備え、できるだけ積荷を降ろして船体を軽くする。自らの決定に文句をいうものは誰一人としていなかった。皆、自分ができることを懸命に行っている。激しい揺れに見舞われる中、着実に前進している様子を伝える機長の高度アナウンスがクルーを奮い立たせ続けた。そして、10日後、飛行船の目の前には晴れ間が広がり、自信に満ちたクルーの笑顔がひろがっていた――。

 近年、「対話」の重要性が見直されている。多様な人々が知恵やアイデアを共有し、深め合う「対話」によりイノベーションが期待できるからだ。唐突だったかもしれないが、冒頭のストーリーは、その効能をイメージしてもらうため筆者の創作である。少しは「対話」が果たす役割を感じ取ってもらえただろうか。

 対話を通じて人を動かす手法として注目を集めているのが「ワークショップ」だ。本稿では、現場の知恵とやる気を引き出すワークショップの活用方法について紹介していく。