前回、顧客の心に寄り添うマインドシェア経営を概説し、IH調理器、冷蔵庫、食洗機などをつくる家電メーカーなら「豊かで健やかな食生活を支える」を追求することが考えられると述べた。もちろん、顧客の食生活は、1社の家電メーカーだけに異存しているわけではなく、多くの会社に支えられて成り立っている。従って、それら全てをゼロから自前でやる必要はない。

 ただし、多くの会社が関わっているが故に、チグハグなところも存在する。その中で上手くいっていないところ、もう少し上手くいくはずのところだけを直していけば良い。それによって、各社の取り組みをつなぎ、不足している取り組みを補い、顧客の食生活をコーディネートしていくのだ。

 こだわるべきは、他の会社と協力しつつも、自社の存在によって「豊かで健やかな食生活がある」と感じてもらうこと。その価値に魅力を感じた顧客に最初に思い出してもらえるブランド・会社になるための立ち位置を確立するのだ。

 加えて、価値を演出する際には、「同じ価値を安く」ではなく、「より高い価値を高く」を追求していくことも大切だ。同じ価値を提供し続けると、次第に価値が下がる。常により高い価値を生み出し続け、より大きな満足と対価を得るという好循環を回していかなくてはならない。さもないと、次第に値下げのみが生き残りの手段という状況に陥る。

 当然ながら、その好循環には、顧客との途切れのない接点が必要となる。接点をどのくらい確保したいか、インパクトのある接点と普通の接点をどのように組み合わせるか、顧客の価値に貢献していない他の企業から主導権を奪うべき接点は何かなど、顧客の立場から考え抜くことが重要だ。