生活の中で、顧客が1つの製品に集中して向き合っている時間はあまり長くない。集中しているように見えても、他のいろいろな製品やサービス、自らの考え事、周囲の人との会話がどんどんそこに割り込んでくる。そんな状況の中で、顧客の心をしっかりと掴むくためには、その製品のみならず、割り込んでくるさまざまなものにも、製品と共通するコンセプトを込めて、積極的に関わっていくことが必要だ。

 この“顧客の心をしっかり掴む”ということは、「マインドシェア」を高めることに他ならない。マインドシェアとは、企業が提供する製品やサービス、ブランドが消費者の心(マインド)をどれだけ占めているかということ。つまり、消費者の心に置ける製品・サービス・ブランドの占有率である。

 本稿で取り上げる「マインドシェア経営」とは、企業が顧客一人ひとりに寄り添い、そのマインドシェアを高める活動に注力する経営のことである。顧客の心のどれだけ多くの部分を占有することができるかという試みだ(図1)。

図1 マインドシェア経営とは
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図1 マインドシェア経営とは

 ある特定の製品を顧客に提供し、その顧客の満足を得るという伝統的な経営と比べると、大きく考え方が異なる。製品やサービスの提供を1つのきっかけに、顧客の気持ちの変化と向き合い、その気持ちに応え続けていく経営がマインドシェア経営である。もちろん、顧客一人ひとりの頭の中を全て占有するといったレベルにはなり得ないが、これまでの何十倍もの対話を顧客と続け、自社を常に頭の片隅に置いてもらうという、終わりのないチャレンジだ。