新年、明けましておめでとうございます。

 正月休みには、初詣の行列、恒例のおせち料理、帰省帰りの大渋滞など、例年と変わらない光景が見られました。しかし、それとは対照的に、2017年の産業界には大きな変化が訪れそうです。

 変化の第一要因は外部環境によるものです。その象徴が英国のEU離脱や2017年1月20日に米国大統領に就任するトランプ氏の当選といった出来事です。昨年の英国のEU離脱では株価の急落が起こり、さらに米国選挙以降は円安や株価の上昇など、経済面でさまざまな変化が起こっていますが、それを予想できた人はどれだけいるでしょう。トランプ氏は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱を表明しているだけでなく、メキシコからの輸入品に高額な関税をかけるべきと主張するなど、米国内の雇用を重視する政策を打ち出しており、あらゆる産業に想定外の事態が起こる可能性があります。

 すでに起こった影響もあります。新年を迎えた1月3日には米Ford Motor社がメキシコに約1900億円をかけて建設予定だった新工場の計画を撤回し、ミシガン州の既存工場に800億円強を投資すると発表しました。日本の自動車メーカーが米大陸への輸出拠点として拡充を進めているメキシコでの生産も、新大統領の政策いかんによっては戦略を見直す必要があるかもしれません。

 次の要因は、これまでの各業種ごとの業界地図が不安定になりつつあることです。これまでは自動車や電機、機械、医療といった主要産業に、すでに存在を確立したメジャーなプレーヤーが安定して存在していました。ところが、自動運転や人工知能(AI)、情報通信技術などが重視されるにつれ、IT企業や新興企業も有力な新規参入者としての存在価値を発揮し、お互いの事業範囲がかぶるようになってきました。この両者はお互いの利点を生かすためにも、協調しながらも競争するといった取り組みを進めていますが、将来のITを利用したサービスにおいては熾烈な競争が起きるといってよいでしょう。

 変化という点では、かつてConsumer Electronics Showと呼ばれていた、年始の米国展示会「CES 2017」も大きく形を変えています。日本の家電メーカーなどが記者発表や展示を削減するとともに、増えてきたのが自動車メーカーで、今年の開幕は米FCA US社の発表で始まり、さながら自動車ショーの様相を呈してきました(関連記事12)。

 FCA US社が出展したのは、ITによるソフトウエアの更新で部分的な自動運転車から完全自動運転車へのアップグレードが可能なコンセプト車。いわば見た目はクルマですが、中身は人工知能や高度なセンサーの固まりといってよく、電子技術と通信技術が鍵を握っているといっても構いません。CESにこうしたクルマが登場するようになったのも、従来明確に分かれていたメカとエレキの融合が進んでいるからにほかなりません。

 変化の第3要因として見逃せないのは、ハードウエアからソフトウエア・サービスへの流れです。すでに製造業でも、建設機械のコマツや、ジェットエンジンの米GE社などが遠隔監視を実現し、サービス化の先鞭を切っています。これらはいずれもB to Bにおけるサービス展開の事例ですが、シェアリングエコノミーの普及とともに、B to Cにおいてもサービス化の流れが加速することは間違いありません。

 詳しくは米国でこうしたサービスを体験した手記「支局記者が体験したシリコンバレーの未来生活」を読んでいただきたいのですが、例えば「Brita」の浄水ポットは水を入れた回数を記録していて、一定回数以上になると交換用のフィルターをamazonに自動注文してしまいます。交換の管理や注文の手間を省くサービスをつけて、製品を売っているのです。IoTを取り入れることで進化する民生品はこれからますます増えるといえそうです。

 日経テクノロジーオンラインは2017年もこうした変化を着実に捉えて、技術者の皆様に仕事に役立つ有益な情報を提供していきたいと思います。特に、今年はこれまでご愛読いただいている専門誌の記事やそのほかの有料コンテンツを拡充していく予定です。その第一弾として年始には、CES 2017やデトロイトモーターショーの速報記事を、多数配信していきます。2017年もどうかよろしくお願い申し上げます。