「More than Human」は、美術家の坂巻善徳 a.k.a sense氏、デジタルアーティストの小林武人氏の2人によるデザインプロジェクトである。人体の機能を補完する義足などのツールをかっこよくデザインしてみせる。それは「デザインによる人体の拡張」だ。

アーティストの小林氏。モデリングを担当する。大手アニメ会社GONZOでキャラクターモデリングを務めた実績がある。右手にはめているのは骨折したときにも使えるギブス
アーティストの小林氏。モデリングを担当する。大手アニメ会社GONZOでキャラクターモデリングを務めた実績がある。右手にはめているのは骨折したときにも使えるギブス
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 義足を装着することで、ネガティブなイメージだった障害をポジティブに見せていこうとする。その先にあるのは『攻殻機動隊』や『オルタード・カーボン』の世界か。義体にしてもスリーブにしても機能重視とはいえども、ビジュアル的に魅力的だった。

 More than Humanは“かっこいい福祉”を体現したかのようなアイテムで、超福祉展*1のシンボルのひとつと言ってもいいだろう。素材はナイロン、アクリル、シリコーンなどを使用する。坂巻氏のデザインを基に、小林氏が3Dプリンターを用いて立体化していく。2016年には製品化、販売を目指す。

*1 正式名称は「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(2015年11月10~16日開催)

 米国では同種の製品が400米ドル前後で販売されているが、いわゆる“吊るし”の既製品。小林氏は「オープンリソース化」「廉価版の吊るし」「オートクチュール(アート作品)」の三つのフェーズでビジネス化していきたい考えだ。当面は、ネット上でリソースを公開し、何らかの形で課金するビジネスモデルの「オープンリソース化」とともに、オーダーメード1点物のオートクチュールでのビジネスを推進していく予定だという。

UNICORN 義足カバー
UNICORN 義足カバー
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 今、2人のプロジェクトは、3Dプリンター業界を巻き込む大きな動きに育ちつつある。ストラタシスジャパンやキヤノンマーケティングジャパンなどが「More than Human」を軸に連携し、新たな取り組みに着手しているという。

 「アートの力で3Dプリンター業界の底上げに貢献できれば」と小林氏。メーカーの研究開発担当者やデザイナーは構造や強度、技術的な“実現可能性”の枠に発想が縛られていることが多いが、そんなことはお構いなしのアーティストとのコラボが、多くの刺激になっているという。