従来の福祉機器とは一線を画した「超福祉機器」を展示するイベント「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(以下、超福祉展)」が、今年も東京・渋谷ヒカリエで開催される(2016年11月8~14日)。3回目の開催となる今年の超福祉展の見どころの1つが、福祉機器そのものの展示だけではなく、各機器の誕生背景や開発の試行錯誤を伝える企画展示「Take the Next Step」だ。この企画展示の狙いは何か。監修を務めるTakramのデザインエンジニア・緒方壽人氏に話を聞いた。

超福祉機器の魅力を伝える次の段階へ

Takramのデザインエンジニア・緒方壽人氏。東京大学工学部産業機械工学科卒業。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、2010年にON THE FLY Inc.を設立。2012年よりTakramに参加。ハードウエア、ソフトウエアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスなど、領域横断的な活動を行う。主な受賞に、2004年グッドデザイン賞、2005年ドイツiFデザイン賞、2012年文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。
Takramのデザインエンジニア・緒方壽人氏。東京大学工学部産業機械工学科卒業。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)、LEADING EDGE DESIGNを経て、2010年にON THE FLY Inc.を設立。2012年よりTakramに参加。ハードウエア、ソフトウエアを問わず、デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスなど、領域横断的な活動を行う。主な受賞に、2004年グッドデザイン賞、2005年ドイツiFデザイン賞、2012年文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。
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 かつて福祉機器は、そのデザインに注目が集まることはなかった。しかし近年、最先端のデザインやテクノロジーを有し、従来の福祉機器を超越した「超福祉機器」が続々と出現し始めている。例えば、2015年のグッドデザイン賞大賞を受賞したパーソナルモビリティー「WHILL」や、同年の金賞を受賞した電動義手「HACKberry」といったプロダクトがそうだ。そんな超福祉機器が一堂に会するイベントが「超福祉展」である。

 超福祉展は2014年からスタートし、「カッコイイ」「カワイイ」「ヤバイ」といったキーワードをテーマに、デザインやテクノロジーを前面に押し出し、障害者だけではなく、健常者にも福祉機器をアピールすることで従来の福祉へのイメージを変えようとしてきた。その狙いは着実に浸透してきており、第1回は1万3000人、第2回は3万2000人もの来場者を集めている。

 このイベントの売りの1つは「来場者が気軽に展示物に触れられる」ということだ。普段は接する機会がほとんどない福祉機器に触れることで、一般の人々がその魅力を体感できる。その気軽さ、斬新さが、年々来場者を増やす一因になっている。

 ただ、これまでは展示会場に各プロダクトに関する詳細な説明がなかった。そのため、従来の福祉のイメージを変える役割は果たしていたが、ある意味、表面的な展示にとどまっていることが課題だった。これを解決し、さらに多くの人に超福祉機器の魅力を伝えていくイベントにするために、主催者側が白羽の矢を立てたのが、東京とロンドンを拠点に活動するクリエイティブ・イノベーション・ファームのTakramでデザインエンジニアとして活躍する緒方壽人氏だ。

 緒方氏は東京大学工学部の出身で、バックグラウンドは機械工学・機構設計である。しかし、その活動の幅はハードウエアだけにとどまらず、ソフトウエアやデザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスなど多岐に渡る。これまでグッドデザイン賞や文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など、数々の賞を受賞した経歴を持つ。

 そんな緒方氏が「超福祉展のステップアップのために企画展のディレクション、キューレーションをしてほしい」という主催者側からの要望に対して提案したのが、展示されるプロダクトの「ストーリー」を見せるということだった。その意図と狙いについて、緒方氏はこう語る。

「従来の福祉機器は、ユーザーが求める機能を満たすことを優先する傾向にありました。でも、超福祉展に展示されるプロダクトは、デザイン的なカッコよさを持ち合わせています。『カッコイイ』は見た目の話だけではなく、意味を持ったデザインであるということで、つまり機能美を持っているということ。実際、デザイン性が評価されたことで賞を受賞したり、メディアに取り上げられたりするプロダクトも多く存在します。ですが注目度が向上すると、その分“どこかで見たことがある”という人も少なからず出てきてしまう。そういう人たちにプロダクトを単純に並べて見せるだけでは“既に知っている”と思われてしまう」

「これらのプロダクトを初めて目にする人はもちろん、“既に知っている”人たちにどうアピールするかを考えて、それぞれのプロダクトの背景に注目してみることにしました。今回紹介するプロダクトは、どれも様々な試行錯誤や紆余曲折を経て今に至っています。それは開発段階だけではなく、マーケットに届けるまでの道のりでも同じです。多くの苦労を乗り越えて現在の形に至っているという、プロダクトのストーリーを伝えることで新たな角度から興味を持ってもらい、より深い共感を与えられると思ったんです」

 それぞれの福祉機器の背景に焦点を当てることで、「なぜ、その機器が今の社会で必要とされているのか」「これからはどのように求められていくことになるのか」について展示を見た人に感じてもらいたいというのだ。

福祉以外の製品も福祉のためになる

 今回の超福祉展で緒方氏が手掛けるのは「Take the Next Step」という企画展示だ。ここでは複数の超福祉機器が展示される予定だが、緒方氏はそのセレクトから担当している。同氏が選んだのは次の7つだ。

表:緒方氏が選んだ7つの製品/技術
製品/技術名内容企業名
Xiborg Genesisアスリート向け競技用義足Xiborg
Finch自由に簡単に扱える電動義手ダイヤ工業
HACKberryオープンソースで進化を続ける電動義手exiii
Ontenna聴覚障害者用のウエアラブルデバイス富士通
C-FREX2足歩行アシストと車いすの組み合わせUCHIDAなど4社
MaBeee乾電池型IoTノバルス
BOCCOコミュニケーションロボットゆかい工学
* 4社は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所/UCHIDA/exiii/ソニーCSL