そのひとつが「障害者を車いす利用者しかイメージしていないのでは?」という点だ。特にSky High、超人将棋は、車いすを強く意識した提案になっている。渋谷区の原氏がかねて指摘しているように、障害者とひと口で言ってもその内実は多様だ。「“どんな人でも楽しめる”というが、その中身をもう少し広げてもらえれば」と原氏はアドバイスした。須藤氏も「“インクルーシブ”とは言うが、その中身をもう少し考えてほしい」と指摘した。

 稲見氏も、「超人スポーツ=モビリティーのイメージに引っ張られ過ぎたのかも」と感想を述べる一方で、今回の取り組みを「超人スポーツを“リセット”する良い機会になった」と話す。

 「参加者にとっては福祉や社会のバリアの問題を一人称で考える良い機会になったと思う。超人スポーツも、誰もが楽しめるスポーツという超福祉的観点に立って“原点回帰”することができたように思う。ハイテクを使うことが超人スポーツではなく、“アルテク”(ローテクも含む既存の技術)を組み合わせて新しい思考、発想でアプローチすることも重要だ」(稲見氏)。

新しいスポーツを生み出す意義

 「超人スポーツ」と「超福祉」という2つの視点から新しい超福祉スポーツを生み出すことを目指すこの取り組みだが、そもそも新しいスポーツを生み出すことにどのような意義があるのか。

Sky Highの開発シーン
Sky Highの開発シーン

 第1に、超人スポーツ協会が提唱するように近未来社会にふさわしいスポーツの要件を満たすことにある。将来、IT(情報技術)、AI(人工知能)の発展によって、人間にはより多くの余暇が生まれる可能性がある。また、高齢化が一層進み、従来のフィジカルスポーツだけでは高齢者のスポーツ欲求を満たせない可能性も高い。近未来には、年齢やフィジカルによらない誰もが楽しめるスポーツが必要になる。

 第2に、ここにイノベーションの原型があるという点だ。須藤氏はオランダのデルフト工科大学で客員講師を務めるなど、世界のイノベーションの現場をつぶさに見てきている。このハッカソンの現場を見て、「世界標準に近い空気があると感じた」と話している。

 「コンセプトを持ち、課題を設定し、解決まで一本筋の通った活動を、個人のインスピレーション、クリエイティブに従って、まず実践する。こうした世界標準のクリエイションが行われているのが素晴らしい。これは今の日本に最も必要なもののひとつなのではないか」(須藤氏)。

 業種の壁を超えたオープンイノベーションを求める企業は多く、その種の取り組み(ハード、ソフトともに)が多数行われているのは周知の通りだが、実際には必ずしもうまくいっているとは限らない。しかし、「スポーツをかませることで、そのプロセスがスムーズにいく可能性がある」と指摘するのは稲見氏だ。

 「スポーツが対象になると、スポーツ嫌いの人でも(と自分を指して)、誰もがちょっとずつアイデアや技術を出したくなる。スポーツにはそんな力がある」(稲見氏)。