作家・星新一のショートショートに『あるエリートたち』という作品がある。まったく新しいゲームを生み出すために、ゲーム会社がエリート社員4人に何ひとつ不自由のないぜいたくな暮らしをさせるという話だ。およそ世にある楽しみをすべて味わい尽くした4人は、やがて暇にあかせて、自分たちが純粋に楽しめるまったく新しいゲームを創り出す。そのゲームはもちろん大ヒットすることになる――。

 昨今、これまでにない新スポーツを生み出す取り組みが各所で行われている。しかし、新スポーツの創造には、エリートたちのような特殊な環境や才能は必要ない。

「超人スポーツ×超福祉展 “超福祉スポーツ”開発プロジェクト」の様子
「超人スポーツ×超福祉展 “超福祉スポーツ”開発プロジェクト」の様子
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 2017年10月2日と10月15日に開催された「超人スポーツ×超福祉展 “超福祉スポーツ”開発プロジェクト」では、2日間のアイデアソン、ハッカソンで、未来の社会を見据えた新しいスポーツが開発されたのだ。

 そこには、最先端技術やインクルーシブ(社会的包摂)な視点も含まれている。ハック終了後に出されたアウトプットはまだまだ荒削りではあったが、未来にあるべきスポーツのエッセンスが詰め込まれていたように見える。未来のスポーツはどのようなものになるのか、そしてその開発にはどんなファクターが必要なのだろうか。

超人スポーツと超福祉展がコラボ

 「超人スポーツ×超福祉展 “超福祉スポーツ”開発プロジェクト」は、超人スポーツ協会と、超福祉展を主催するピープルデザイン研究所の共催で実施された。

2016年の超福祉展で一般来場者も超人スポーツを楽しんだ(写真は「キャリオット」。宮下公園にて)
2016年の超福祉展で一般来場者も超人スポーツを楽しんだ(写真は「キャリオット」。宮下公園にて)
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 超人スポーツ協会は、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏が共同代表となって立ち上げたもので、人体の能力を拡張する技術やIT(情報技術)を用い、21世紀の情報化社会にふさわしいスポーツを生み出すことを目的としている。技術を身体の一部のように使いこなす状態を“人機一体”と呼んでおり、技術の力を用いてすべての人が楽しめるスポーツの実現を目指している。

 10月2日のアイデアソンで、インプットトークに登壇した中村氏は「今あるスポーツの多くは農業社会のもとに生み出され、産業社会になって大衆化したものばかり。産業社会下で生み出されたスポーツはモータースポーツくらいしかない。情報化社会にふさわしいスポーツを生み出す必要がある」と話した。また、情報化が極度に進んだ社会、それは高齢化率が著しく増加した未来の社会でもある。「人工知能(AI)が発達し、シンギュラリティーが実際に起きれば、さらに人間は暇になる。そんな社会でも楽しめるスポーツを今のうちから考えておく必要がある」と稲見氏も述べた。

 ここに“超福祉”のコンセプトがミックスされたのが、今回のイベントだ。超福祉展は、福祉そのものに対する意識のバリアをクリエイティブに超えていくことを目指すもので、毎年11月に渋谷ヒカリエで開催される。従来の福祉の枠組みを超えたアイデアや技術、デザインによる機器やサービスを展示するほか、ダイバーシティー(多様性)、インクルーシブをテーマにしたシンポジウムなどを実施。今年は4回目となり、11月7~13日に開催される。

※「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」のウエブサイトは、こちら)。

 既存の福祉機器のイメージを超えた「かっこいい」「ヤバイ」アイテムが多数紹介されることで知られており、「障害を持つ人=かわいそう」というマイナスの視点からの福祉のあり方を一変させるものとして注目度も高い。超人スポーツ協会とは第1回開催時から協力しており、毎回超人スポーツ用のギアを展示。2016年には宮下公園で超人スポーツを体験するコーナーも設けられ、多くの一般参加者が楽しんだ。

 もともと協力関係にあった両者が今回一歩進んだコラボレーションに至ったのは、事務局の安藤良一氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン科)の熱意による。

「超福祉展で完成品を展示するだけではもったいない。せっかく渋谷という、かっこいいモノが集まり、生み出される街を舞台にするなら、そこで超福祉のコンセプトを反映した新しいスポーツを生み出したい」(安藤氏)

 ハイデザインでポップな渋谷だからこその超福祉であり、そこで生み出される超人スポーツ。それは“渋谷ネイティブ”な『超福祉スポーツ』になるに違いない。