開発プロセスに意味がある

 15日のハッカソンには10人が参加し、超福祉スポーツを“ハック”した。参加したのは、IT企業、機械系メーカーの企業人、そして学生だ。「いずれも何らかの専門分野を持っている人たち」(安藤氏)で、まさに“精鋭”といった陣立てとなった。

 冒頭、アイデアソンの振り返りから、コンセプトの捉え直し、具体的に形にするためのアイディエーションを行い、「心拍トコトコレース」「ランダムルール人間将棋」「空飛ぶデバイスとスポーツ」の3つに絞り込んで、チームを編成した。

心拍トコトコレースを開発するチーム
心拍トコトコレースを開発するチーム
[画像のクリックで拡大表示]

 心拍トコトコレースは、文字通り、心拍をパラメーターにした競技で、心拍のセンシング技術と、それをアウトプットする技術が必要になる。安藤氏が「身体を別のものにインストールすることになる」と指摘したように、この日は簡易なロボットに心拍を反映するシステムを構築することにチャレンジ。このチームは実にハッカソンらしい、デジタルな開発の現場となった。

 ランダムルール人間将棋は、さまざまな人が等しく駒となって同一平面上で戦えるゲーム。一般的な人間将棋をモチーフにはするが、個々の駒の個性・特性が反映されるものになるだろう。従って、デバイスよりはルール、ゲームデザインが肝になる。開発の現場は、ひたすらアイディエーションの繰り返しであったのが印象的だった。

 空飛ぶデバイスとスポーツは、「インプットとアウトプットを変えたら面白い」というアイデアソンでの着想から広がったもの。「手足を動かすと泳ぐように移動できる」→「空を飛んでるみたい!」という遷移である。ハッカソン中は徹頭徹尾、「空を飛ぶ」体感を得るためのデバイスの利用法や、その面白さを確認することに費やされていた。

 デジタル、ソフト、ハードと見事に分かれてのハッカソンとなったが、3チームともアイデアソンの成果をよく反映していたのが印象的だった。人と人の間のバリアとは何なのか、それを超えるためにはどうしたら良いのか。考え詰めたエッセンスがしっかりと反映されている。これについて、安藤氏は、「時代なのかも」とコメントした。

 「もともと超人スポーツ自体にユニバーサルデザイン志向はあるが、こうしてインプットトーク、アイデアソンで出てきた課題をうまく吸収しているのは、やはり、誰もが潜在的に“何とかしなきゃ”と感じているからではないか。これまでは、それを声にして形にする機会がないだけだった。今回の開発のプロセスが、その機会となって引き出せたのではないか」(安藤氏)

 会場を訪れたピープルデザイン研究所の代表理事、須藤シンジ氏は、「ハンディキャップ、バリアを起点に超人スポーツを考えると、こういうことが起こるのか」と感心した様子。須藤氏によると、超福祉展と超人スポーツはほぼ同時期に連携を取りながら発足し活動を共にしてきた。その意味で両者は精神的双子のようなものだ。

 「すべての人ができるスポーツ」というユニバーサル志向、福祉そのものではない視点から福祉にアプローチする視点は両者に共通している重要なコンセプト。しかし、2014年の両者発足後、超人スポーツはモビリティーなどの人体拡張技術がクローズアップされることが多く、福祉的視点が明示されることが少なくなっていた。

 「出発点は同じところだったが、改めてハンディキャップを起点に超人スポーツを考えることで、超人スポーツと超福祉展が共に活動できる新しいレイヤーが作られたように感じている」(須藤氏)

 また、この開発プロセスにこそ「意義がある」と須藤氏は言う。

 「福祉に関係のない人が、開発を通して福祉や社会のバリアを主体的に考えることができる場になったのではないか。一般の人が楽しもう、という視点でバリアを越えようとする現場になっていると言えるだろう」(同)

「超福祉展」開期中の2017年11月11日(土)、ケアコミュニティ・原宿の丘と東京メトロ渋谷駅13番口広場で、開発された超福祉スポーツ、超人スポーツを体験できる!。詳細は超福祉展のサイト参照