超えるべき壁とは

 今回のイベントは10月2日夜にアイデアソン、10月15日は丸一日をかけてのハッカソンという2部構成で行われた。

 2日のアイデアソンにはおよそ40人が集まり、インプットトークとアイディエーションに参加。インプットトークでは、グラフィックデザイナーのライラ・カセム氏、渋谷区福祉部障害者福祉課課長の原信吉氏、中村氏、稲見氏が登壇し、それぞれの立場からプロジェクトへの期待と社会の課題感などを語った。

10月2日のアイデアソンでのインプットトーク。左から中村伊知哉氏、稲見昌彦氏、原信吉氏、ライラ・カシム氏
10月2日のアイデアソンでのインプットトーク。左から中村伊知哉氏、稲見昌彦氏、原信吉氏、ライラ・カシム氏
[画像のクリックで拡大表示]

 カシム氏はインクルーシブデザイン、グラフィックデザインで社会のマイノリティグループを“エンパワーメント”する活動に取り組んでおり、渋谷では行政とともに障害者のアートを製品化するプロジェクトに参画している。会場ではさまざまな障害を持つ人とともにデザインやプロダクトを制作している経験から、コミュニケーションする上でのポイントや、何かを制作する際のベクトルなどを示唆した。

 原氏は障害者福祉を担当する行政マンで、その熱意あふれる活動は内外に広く知られている。渋谷区内の各施設をつぶさに見ており、「障害」と一口ではくくれない幅広い多様性と問題があることを提示し、「現場に思いを致したアイデアを」と呼びかけた。稲見氏も「スポーツの本質は、“壁を超える”ことではなく、乗り越えるべき壁をデザインし、作ることにある。うまく楽しい壁を作ってほしい」と話した。

 プロジェクトを通底するテーマ、コンセプトとして「人と人との間の壁を超える」「SPORTS for ALL」の2つが掲げられた。後半は参加者たちによるアイデアソンとなったが、「福祉」「インクルーシブ」とは言わずに、「人と人との間の壁」という言葉で幅広く設定していたために、参加者も既存の福祉の枠にとらわれずに、自由に発想することができたようだ。

アイデアソンの様子
アイデアソンの様子
[画像のクリックで拡大表示]

 1時間足らずの短い作業だったが、超えるべき壁を「身体」「認識」「都市」「他人」「やる気」の5つと設定したうえで、およそ300におよぶシードアイデア(アイデアの種)を列挙し、最後に主なものをシェアしこの日は終了となった。