2020年東京パラリンピックに向け、障害者スポーツが本来持つスポーツとしての魅力、コンテンツとしての可能性に注目が集まり、ここにきて障害者スポーツを取り巻く環境は大きく変わり始めている。その変化の1つが企業による選手の雇用だ。企業の支援によって競技中心の雇用契約を結び、集中して競技に臨める選手が増えつつある。選手にとっては大いに歓迎すべき状況であるが、支援は企業にとってはどのようなメリットがあるのか。そして、今後求められるものは何か。2005年から障害者アスリートの支援プロジェクトを展開しているエランシアの高原俊道代表に話を聞いた。

変わりつつある障害者アスリートの競技環境

 リオデジャネイロパラリンピックには127人の日本人選手が参加した。その中で純然たるプロとして生計を立てているのは車いすテニスの国枝慎吾選手や上地結衣選手、車いすバスケットボールの香西宏昭選手などごくわずかだ。大半の選手は企業に属し、会社員という立場で競技に取り組んでいる。

 こう聞くと「仕事と競技を両立せざるを得ない厳しい環境で戦っている」と考えるかもしれないが、必ずしもそうではない。障害者スポーツへの注目度が高まるにつれて、競技を中心に生活ができるアスリート社員としての立場で戦う競技者が増えてきているのだ。

 アスリートたちがそのようなポジションを得るには、主に4つの方法がある。(1)選手自身が企業を回って就職活動を行う方法、(2)競技団体からの紹介・斡旋で入社する方法、(3)日本オリンピック委員会(JOC)の就職支援制度である「アスナビ」を利用する方法、そして4つめが、(4)人材紹介会社を活用して就職するという方法だ。2020年の東京パラリンピックに向けて障害者アスリートたちの競技環境の整備が求められる中、アスリートたちの就職事情はどのようになっているのか。障害者アスリートの就労支援サービスを展開するエランシア 代表取締役の高原俊道氏に話を聞いた。

スポンサー探しではなく人材紹介という形で支援

 エランシアは、アスリートに限らず、一般の障害者の就職・転職を支援する企業だ。2004年に設立し、これまで数多くの人々の就労支援を手掛けてきた。そんな同社が障害者アスリートの就労支援を始めたのは、設立から間もない2005年のことだった。

エランシア代表取締役の高原俊道氏。2004年にエランシアを設立し、2005年から障害者アスリートの就労支援を手掛けている。現在は就労支援だけではなく、一般社団法人 「日本チャレンジドアスリート協会」の理事として、アスリートたちの社会的価値と競技力の向上、セカンドキャリアの支援など、包括的に障害者スポーツをサポートしている
エランシア代表取締役の高原俊道氏。2004年にエランシアを設立し、2005年から障害者アスリートの就労支援を手掛けている。現在は就労支援だけではなく、一般社団法人 「日本チャレンジドアスリート協会」の理事として、アスリートたちの社会的価値と競技力の向上、セカンドキャリアの支援など、包括的に障害者スポーツをサポートしている
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「2005年にアルペンスキーヤーの東海将彦さん(立位でトリノ、ソチ・パラリンピックなどに出場)から“競技活動を行うためのスポンサー探しに協力してもらえないか”という連絡をいただき、そこから当社とアスリートたちとの関わりがスタートしました」

 もともとスポーツ好きだったこともあり、本業の合間を縫って東海選手をサポートすることになった高原氏。初めのうちは素直にスポンサー企業を探し回ったが、当時は障害者スポーツへの注目度は低く、箸にも棒にも掛からなかったという。

「そこでひらめいたのが、人材紹介という形で雇用契約に結び付けるということでした。エランシアが本来得意とする形で支援するようにして、選手も一般の方と同様に社員として雇用してもらえるよう、提案していったんです」

 その結果、物流大手のDHLジャパンが東海選手を採用することになったという。それ以降、エランシアのサービスはアスリートたちの間で、少しずつ口コミで広がっていき、これまでに60人以上のアスリートと企業をマッチングしてきた実績を持つ。障害者スポーツ自体の知名度が低かった頃からアスリートたちの競技環境を向上させるためにサポートしてきたパイオニア的な存在というわけだ。