障害者スポーツ特有の魅力を伝えるための試行錯誤
障害者スポーツ中継のパイオニア的メディアであるスカパー!がはじめに直面した「意識のバリア」という心理的な壁。アスリートたちと接し続けることでその障壁を乗り越え、「アスリートをリスペクトし、放送する」という同社の哲学に立ち戻ることができた。ではその一方で、技術面ではどのような苦労があったのだろうか。スカパー!のパラリンピックプロジェクトでプロジェクトリーダーを務める渡部康弘氏は、競技特有の魅力を伝えることに苦慮したと話す。
その例として挙げたのがブラインドサッカーの中継だ。ブラインドサッカーはその名の通り、視覚障害を持つアスリートによるサッカーで、選手たちはボールに入った鈴の音と敵陣ゴール裏にいるガイドと呼ばれる指示役の声を頼りにプレーする。音が非常に重要となるスポーツであるため、プレー中に観客が声援を送ることもできない。スカパー!では2014年に東京で行われたブラインドサッカーの世界選手権を中継したのだが、この「音」の邪魔をしないために試行錯誤したという。
「健常者のサッカーであれば当然スタジアムに実況解説を入れますが、ブラインドサッカーの場合、実況解説の声すら試合の妨げになってしまうのではないかと思ったんです。そのため、2014年の世界選手権では、スタジオで実況解説を行うようにしました。しかしそれでは迫力が伝わらなかったのではないかと、大会後に大いに反省しました」
このときの経験を生かし、翌2015年に再び東京で行われたアジア選手権兼リオデジャネイロ・パラリンピックアジア最終予選では、ピッチの横に櫓を組み、高い位置から実況解説を行うという方法を採用することで、臨場感あふれる実況解説を可能にしたという。それと同時に、音声にも工夫を施した。
「ブラインドサッカーの特徴はボールの音とガイドの声。やはり、その音を視聴者にも聞いてもらいたいと考え、主音声は実況解説付き、副音声は実況解説無しで、ピッチの音をそのまま聞かせるようにしました」
一般的にはまだ馴染みの薄いスポーツであるからこそ、視聴者に魅力を伝えるためにトライ&エラーを繰り返す。だが、それもまだ完璧ではない。長年中継を行っている車いすバスケでも、撮影や画づくりでこんな苦労があるという。
「車いすバスケの場合、今は健常者のバスケと同じように、ボールを持っている選手やゴールシーンを放送する形になっています。しかし、車いすバスケはディフェンスのシーンでローポインターがハイポインター*1を抑えるところに戦術の妙があるんです。そのため、点差が離れるような試合展開の場合は、ゴールシーンを映さずにディフェンスのエリアでのローポインターとハイポインターのせめぎ合いを映したい。それはディレクターにも言っているんですが、そこまではなかなか割り切ることができていない。悩みは尽きませんね」