視覚障害を持った選手がプレーする5人制のサッカー、ブラインドサッカー。日本でこの競技を統括する特定非営利活動法人の日本ブラインドサッカー協会は、障害者スポーツの競技団体としては他に類を見ないほど自立的な運営ができていることで注目を集めている。同協会で事務局長 兼 事業戦略部長を務める松崎英吾氏のインタビューの後編では、2020年東京パラリンピックへ向けた展望、そして2020年以降、どのようにブラインドサッカーを発展させていこうとしているのか、についてお伝えする。

サポーターやスタンド、施設も含めてのスポーツ

―― 日本でブラインドサッカーの知名度が高まったのは、2014年の世界選手権を渋谷で開催したことが契機になったと思います。

日本ブラインドサッカー協会 事務局長兼 事業戦略部長の松崎英吾氏。大学生時代にブラインドサッカーに出合う。卒業後は出版社に勤める傍らでブラインドサッカーに携わっていたが、2007年に事務局長に就任。ブラインドサッカーを通して「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会」を実現するために、さまざまな事業を推進している
日本ブラインドサッカー協会 事務局長兼 事業戦略部長の松崎英吾氏。大学生時代にブラインドサッカーに出合う。卒業後は出版社に勤める傍らでブラインドサッカーに携わっていたが、2007年に事務局長に就任。ブラインドサッカーを通して「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会」を実現するために、さまざまな事業を推進している
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松崎 2011年にもアジア選手権を日本で開催しているのですが、そのときは、仙台にある野球場の外野部分を使って試合をしました。当時も1試合で700人ほどの観客が来てくれたのですが、野球場なので内野部分のスタンドはガラガラで、とても寂しい雰囲気でした。大型ビジョンもなく、あるのは野球のスコアボードだけという状態でした。

 そんな経験をしていたので、2014年の世界選手権はより適切な観戦環境でブラインドサッカーを見てもらいたいと思っていました。とはいえ、プロが使用するような場所を1~2週間単位で抑えるのは難しいですし、そもそもブラインドサッカーを適切に見られるような場所は日本中を探してもどこにもありませんでした。

 だから、一般の方に貸し出しをしている場所を探し、そこで自分たちでスタンドを作ってしまおうと考えました。以前は「グラウンドなどの環境は、すでにあるものを提供してもらう」という考えでしたが、2014年の世界選手権以降は「自分たちで作るもの」になったと思います。

―― その結果、多くの人が観戦に訪れましたね。

松崎 9日間の大会期間中、7988名の方が会場に足を運んでくれましたし、初戦と決勝戦は満員でした。これは、多くの方が仕事を終えた後に見に来やすい渋谷で開催したことも大きかったと思います。実際、私たちの研修を体験してくれた方々も、アフター5に見に来てくれました。

 このときのスタンドは満員で約1700名収容だったので、スポーツ界として俯瞰的に見ると大したことがない数字です。しかし、独自に会場を作った効果で、観客の密度が高く、今まで経験したことがないような一体感が生まれました。メディアの方々も取材に来てくださり、その様子を世の中に広く伝えてくれました。「サポーターやスタンド、施設も含めてスポーツ」なんだということに気づきました。

ブラインドサッカーを有料で見せる意義

―― 2014年の世界選手権と2015年のアジア選手権では、パラリンピック単独の競技会としては珍しい有料開催をしています。

松崎 はい。多くの方が見に来てくれたので、チケットの販売率は80%ほどに達しました。有料開催をしようとして関係各所を回っていた際には「絶対に失敗するからやめた方がいい」と言われることもありました。しかし、私たちはこれから先も国際大会を日本に招くという戦略を立てていたので、どこかで有料化にチャレンジしたいと考えていました。そうしないと、チケットをいくらで売っていいか分からない状態でした。

 2014年のチケットの平均販売単価は1362円で、2015年は1817円でした。平均単価はまだ上げられるという実感を持っていますが、そうした感覚も、実際にやってみて分かったことです。

―― 観客が来てくれるという勝算はあったのでしょうか。

松崎 自信はありました。私たちはスポ育や企業研修を通して年間2万人の方々にブラインドサッカーを90分間以上体験していただいているので、ブラインドサッカーに触れた人たちが訪れてくれるはずだと考えていたんです。逆に、それでも観客を集められないようであれば、我々の事業を抜本的に見直さなければだめだとも思っていました。

企業向けの研修プログラム「OFF TIME Biz」の様子(写真:日本ブラインドサッカー協会)
企業向けの研修プログラム「OFF TIME Biz」の様子(写真:日本ブラインドサッカー協会)
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 観客を集められるという勝算があったからこそ、安全面の担保や試合の管理運営をスムーズに行うためにも有料化をすべきだろうという考えもありました。

―― 今後、国内大会でも有料化していきたいという思いはありますか。

松崎 今、日本選手権などは一部有料化をしています。2016年は全800席に対して100席を有料化し、2017年は全1500席に対して800席ほどを有料化します(注:2017年の日本選手権は7月23日に終了予定)。この割合は徐々に増やしていこうとは思っていますが、一方で、すべての試合を有料化しようという方針は持っていません。

 例えば2017年3月、さいたま市と共催する「さいたま市ノーマライゼーションカップ」という大会を開催し、ブラジル代表を日本に招きました。このときには安全管理上ギリギリなくらいに観客が入ったのですが、行政側の方針や、税金で支援していただいたこともあり、無料で開催しています。有料化していればそれだけ収入が増えると考えるかもしれませんが、このノーマライゼーションカップは2017年で5回目を数えており、我々にとっては「ノーマライゼーションの推進」という意義深い大会ですので、行政との関係を断ってまで無理に有料化しようとは考えていません。こうした様々なことを見極めていきます。

―― では、チケット収入を協会の収益源の1つにしようとは考えていないのですか。

松崎 そこはシビアに見ています。有料化することで認知も上がりますし、企業に向けて自分たちの価値を提示するためにも大事だとは思っていますが、チケット収入を協会の収入の柱の1つにすることは相当難しいと思います。

 ただし、個人の方から資金調達をするという意味では、有料化も大きな意味を持っています。私たちとしては、これから先、個人の方との関係を強化していきたいと考えています。

 それはグッズを購入いただくことであったり、寄付であったりするのですが、その中の1つとして、有料の大会を見ていただくというものがあります。ですから、チケット収入を何%増やすという視点ではなく、個人の方からの収入を何%増やすというように見ています。現在は個人の方からの収入は全体の割合からすると微々たるものですが、2024年までに10%にすることを目指しています。