競技用車いす、「いかに選手の体に合わせるか」
日本福祉用具・生活支援用具協会によると、日本における手動車いすの年間生産額はおよそ215億円(2013年度)。このうち、競技用車いすがどれだけの割合を占めているか正確なデータはないが、車いす競技の中でも花形と言われる車いすバスケの競技人口が約1000人程度であることを考えると、決して多くはないだろう。
ただ、耐久性や操作性、軽量化などを追求した競技用車いす開発の技術は一般用車いすの開発に生かせる部分も多く、メーカーとして取り組む意義は大きい。「丈夫で長持ちする」「取り回しがしやすい」「軽くて持ち運びやすい」といった機能性の高さは日常生活でも有用で、それらを実現する素材や構造などの工夫は一般の車いす開発でも大きなヒントになり得るからだ。
現在、日本で競技用車いすの開発に取り組む主要な企業は、日進医療機器、ミキ、松永製作所、オーエックスエンジニアリング(OXエンジニアリング)の4社である。2015年10月に行われ、車いすバスケの男子日本代表がリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を獲得した国際大会「三菱電機2015 IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉*2」では、そのうちの1社であるOXエンジニアリングが各国の車いすの修理やメンテナンスを手掛けるオフィシャル修理班を務めていた。
「我々の会社は千葉市に本社を置いています。会場である千葉ポートアリーナにも近く、千葉市長からも依頼があったため、今大会をテクニカルサポートとして支援しています」
こう語るのは、OXエンジニアリング 営業部の畠澤敬氏。オフィシャル修理班として、パンクの修理やチューブの交換、溶接までをこなしていた。
「利用する車いすのメーカーは国によって異なるため、何でも修理できるわけではありませんが、できる範囲で対応しています」(同氏)
では、メーカーによって違いがある中、競技用の車いすにとって一番重要なことは何だろうか。
「最も大事なことは、選手の体に車いすが合うかどうか。車いすは使う人にしか“乗り味”が分からないため、選手に車いすを納入した段階では、“その時点での100%”でしかありません。乗り続けてもらい、強度や重心、タイヤの位置や角度といった部分を調整していくことでジャストフィットするポイントを探していくことになります」(同氏)
そうした中で、OXエンジニアリングの車いすはどのような特徴を持っているのだろうか。
「OXのコアコンピタンスはデザイン性の高さ、見えないところでの軽量化やこだわり、アフターサービスの充実度、そしてハンドメードで作っていることです。うちの会社は、もともとオートバイのアフターパーツの製造・開発からスタートしており、車いすを福祉機器としてだけではなく『乗り物』の一つとして考えています」(畠澤氏)
同社の経営理念は「創る喜び、売る喜び、使う喜びが伝わる製品の提供」であり、そのため、ユーザーはもちろんのこと、社員も楽しめることが大前提となっているのだ。
実際、デザイン性への評価は上々で、ユーザーの満足度は高いと畠澤氏は話す。車いすバスケを題材とした大人気漫画『リアル』の主人公・戸川清春が使っている車いすも、実は同社の製品をモデルにしたものであるとも教えてくれた。