さまざまな企業の支援をしていると、「この判断は正しいのか?」と思う場面に遭遇することがある。経営の基本はお金であることは以前にも述べた。資本金や銀行などから借りたお金を事業に必要な資産に換え、その資産を活用して利益を生み出すのが企業の活動だ。もともと商売人は少ない元手でいかにお金を増やすかを考えた。すなわち、ムダなお金の使い方をせず、真に事業活動に有効な使い方で新たなお金を生み出す、これこそが経営だ。

 キャッシュフロー経営という言葉を聞いたことのある読者の方も多いと思うが、正にこの「キャッシュフロー経営」の推進こそが経営の基本なのだ。ところが、コンサルティングの現場では、この基本からみて、「その判断は正しいの?」と思う現場にしばしば出くわす。今回は、コンサルティングの現場でみたそんな例を紹介したい。

整理での赤札品の処理…利益が減るので廃棄するな

 それは、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の推進を支援した現場でのことだった。経営再建を図る場合でも、生産現場の改革に取り組む場合でも、基礎工事としてまずは5Sを進める。それは、整理によって使っていない資産を圧縮することでムダな資産をお金に換えると共に、お金が滞留資産や遊休設備として寝ることのない体質を作るためである。要は、真に事業に必要な資産だけにして、ムダなお金の使い方をしないようにするということだ。

 5Sの推進で最初に行なうのは「整理」である。赤札(RED CARD)を貼って、現在の生産に必要ないものを現場から撤去する。その中には、今は使わないが次に使うとか、ある時には必要になるというものがある。それらは使う頻度によって置く場所を決め、必要な時にすぐに取り出せるようにする。

 また、定量を決めてムダな資産を発生させないようにするのだが、赤札品の中には既に長期間滞留していてすぐに使う可能性の低いもの、もう使うことがないものなどもある。それらは、いかに現金化するかを考え、現金化が難しいものは廃棄することになる。

 ところが、それらを廃棄しようとした際、「それを廃棄すると利益が減るので廃棄するな」という指示が支援先の責任者から出たのだ。確かに長期滞留資産といえども、簿価の残っているものを廃棄すればその分の利益は減る。しかし、この判断は適切だろうか。