実力を超えた指示が混乱を招く

 工場で混乱が起こるのはどういう時か。それは実力を超えた時だ。

 例えば、生産能力がないのに、大口の注文が入ったからといって、チャンスとばかりに受けたとしよう。すると、部材の手配が間に合わなかったり、慣れない作業者の大量投入で作業ミスが続出したり、作業のやり直しや手直しが発生したりする。長時間残業による疲れが作業ミスや怪我を招くことにもなる。かく言う現場は混乱する。へたをすれば納期遅延だけではなく、大量の不良まで出して信用失墜といった事態に陥りかねない。

 他社の新製品に対抗するために無理な短期開発を強行するのも混乱の原因だ。適切な品質評価ができないまま市場投入することになり、大きな品質問題が起こる場合がある。ノウハウがない中での素人設計だったり、その製品を製造する技術を持たない見よう見まねの製造だったりといったことも、現場に混乱を引き起こす。

不正につながることも

 実力がないにもかかわらず目標値をどんどん上げるのも危ない。できないことを隠そうと、データをごまかすなどの不正を招くことがあるからだ。どこかで聞いたような話だが、性能評価の際に良い数値が出た時のデータだけを使ったり、データの取り方を変更して良く見せたり、やるべき検査をしないまま出荷したり、といった事例は枚挙にいとまがない。

 こうなると目標を実現できないため、どうごまかすかに知恵を絞ることになる。そうした行為はコンプライアンス問題に発展して企業の信頼を損ね、経営そのものを揺るがすことになりかねない。ごまかしが常態化すれば企業風土そのものがむしばまれ、同じようなことが繰り返される。