海外拠点は1つの独立した会社である。海外出向者の多くは、その会社の経営者として、または経営幹部という位置付けで出向する。一従業員ではなく経営の舵取りをする立場であり責任は重い。会社を潰すことなくいかに存続発展させていくかが、出向者に求められる責務と言える。従業員とその家族の生活は出向者の肩にかかっているということだ。従って、間違っても倒産の危機に陥るような事態を招いてはならない。

倒産するとは

 ところで、会社が「倒産する」とはどういうことだろうか。「倒産」――よく使われる用語で誰もが知っているが、その意味は“企業が債務の支払いができない事態に陥り、経済活動そのものが続けられない状態になったこと”を指す。もっと分かりやすく言えば、お金の支払いができない事態になり、材料費や従業員給与の支払いができなくなって、銀行取引が停止するという事態に陥ることである。

 認識しておくべきことは、お金が企業の命ということだ。企業のトップや幹部に経営に際して一番重要なことは何かと聞くと、「利益を出すこと」と答える人がよくいる。確かに、お金を増やすためには利益が必要なので間違いではない。しかし、利益の追求だけで大丈夫だろうか。利益が出ていても支払うべきお金が無くなれば企業は倒産する。お金の有り無しが企業の生死を決めるのだ。

 実は、利益が出ているにもかかわらず倒産することがある。これを黒字倒産というが、海外拠点の場合、このような事態に陥ることがままある。

黒字なのに倒産?

 売上高が上がっていても、代金を支払ってもらえなかったらどうなるだろうか。売上高は品物を移動させた時点で計上される。現金取引であれば、売り上げと同時に入金ということになるが、通常、現金取引は少ない。2カ月先、3カ月先に支払う売買契約をしていることが多い。すなわち、掛けで売るということだ。物は販売しても、2、3カ月先まではお金が入ってこない。これを売掛金と呼んでいる。

 問題なのは、海外の場合、契約通り支払ってくれないことがよくあるということ。物を買ったのだから契約通り支払うのは当然というのは日本の常識だが、新興国などの海外では、そんな常識は通用しない。特に金利の高い国では、支払いを少しでも遅らせれば金利分だけでも大きな利益になる。支払いを遅らせようとするのは常識という国もあるのだ。そのような国で売掛金の回収がきちんとできないと、売り上げだけはどんどん上がって利益が出ても、いつまでたっても入金がなく資金ショートの危機に直面することになる。黒字でも倒産というのはそういうことだ。