グローバル化の加速により、ある日突然、海外出向を命じられるということは日常茶飯事になった。とりわけ製造業において海外製造拠点の責任者を送り込む場合、技術やものづくりが分かる人材でないと工場の運営は難しいということで、技術者に海外出向辞令が突然出されることが多い。

不安が募るのは当然

 過去に少しは海外拠点の支援をした経験がある人であっても、赴任するとなると不安は大きい。1つには、生活そのものへの不安がある。治安はどうか、水は大丈夫か、食事をするところはあるか…。

 仕事の面での不安はそれ以上に大きい。技術は分かるが、出向するとなると、「技術者」としての立場だけではなく、経営全般を見る必要に迫られることが多いからだ。経営計画の立て方や、日常の経営管理、また、それらの推進方法を熟知していないと、適切な経営は難しい。

 組合問題をはじめとした人事・労務にも頭を悩ませることになる。国によって異なるが、“組合からの要求には何日以内に回答しなければならない”と法令で定めていることも多く、そうした基本を知らないと大問題になりかねない。経営の舵取りをするということを考えると不安が募るのは当然だろう。

 このコラムでは、海外出向する技術者の方に参考にしてもらいたい事柄を、事例なども交えて四方山話的につづっていきたいと思う。これから海外赴任する方の不安の解消に少しでもつながれば幸いだ。今はまだ海外赴任の予定はないという方も、いつ赴任を命じられるとも限らない。そうした事態がいつ訪れてもよいように準備しておくことも技術者には求められる。今の製造業において海外抜きで事業展開があり得ない以上、海外拠点経営への認識を深めておくことは、技術者にとって有意義なはずだ。