ある企業でのこと。それまでの原価管理が適切でなかったので、プロジェクトを立てて原価管理のシステムを導入した。原価の配賦(割り振り)基準についても論議をし、納得できるシステムを導入できた。

 ようやく問題のある商品や取引先が分かるということで、まずは商品別の個別原価を一覧にした。それを見ると驚くほど赤字の商品が多いことが分かった。筆者が見た資料は、赤字額の多い順に商品を並べたリストだった。その意味するところはこうだ。

 赤字商品については対策の方向付けが必要と考えられる。リストを基に、生産/販売を中止するか、生産を外注化して黒字にするか、値上げをして黒字化するか。とにかく赤字商品を無くすためのシナリオを明確にせよと指示しているということだった。それ自体は、もっともな話である。赤字のままでは具合が悪いので、対策をするのは当然だ。

赤字商品を中止すると利益は増える?

図1 売上高の構成と限界利益
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図1 売上高の構成と限界利益
 しかし、赤字の商品の生産を中止したり外注化したりした時、会社全体の利益はどうなるだろうか。赤字商品が無くなるので利益は増える?本当にそうだろうか。

 結論から言うと、赤字商品といえども売上高から変動費を差し引いた「限界利益」がある商品を中止・外注化すれば、限界利益が減った分だけ利益は悪化する(図1)。

 赤字商品を中止することによって減るのは、材料費をはじめとした変動費(売り上げの増減とともに変動する費用)だけだ。減価償却費や人件費、その他の経費はその商品を中止しても減るわけではない。通常、固定費と言われるこれらの費用は、操業度が落ちても変化しない費用である。すなわち、これら固定費は、商品個別の原価を算出するために何かしらの基準で各商品に配賦しているだけで、商品の生産・販売を中止しても固定費の総額は減らない。

 また、別の企業では、購買部長がこんなことを言っているのを聞いたことがある。「うちの工場はコスト力が無くて赤字ばかりなので、徹底して外注化の推進をすることで黒字化するよう力を入れている。だが、工場のコスト力はどんどん低下しており、工場の閉鎖も提案しないといけないのではないかと思っている」。

 これは、ある意味当然のことだ。外注化することで操業度はどんどん低下する。内製する商品が減る中で、残った内製品に固定費の負担がのしかかってくるため、今まで黒字だった商品も場合によっては赤字に転落するからだ。