本コラムの第1回で日本の常識、世界の非常識という話をした。不正は日本では滅多に起こらないが、新興国では「不正も権利のうち」と思っている者もいる。新興国に出向した場合は、不正はあるものという前提で対処することが肝心だ。

 その際、“経営を狂わせるようなことでなければまあ良し”くらいの覚悟は必要だが、不正はあるものなので仕方がない、と放置していたのでは経営にならない。大切なのは、不正ができない仕組みを作っておくことだ。

どんな時に不正は発生するか

 以前、在外企業の支援先で5Sの指導をしていた時のことだ。各職場で手袋を保管していたのだが、保管する量が決められておらず、補充ルールも曖昧だった。そこで、手袋を発注している部門に、各職場での使用量や発注量はどうなっているかを聞いてみたところ、担当者からは「管理していない」という答えが返ってきた。

 仕方がないので経理部門で請求書から発注量を確認してみると、どうみても各職場の責任者の言う使用量の倍以上の発注がされている。各職場での交換基準もなく、好きなだけ持って行って保管するという状況だったので、全社での使用量が分からないことをいいことに、発注担当者は必要量の倍の注文をし、業者を通じてその半分を懐に入れていたのである。

 このように、たかが手袋のようなものでも不正は発生する。お金が関係するものであれば、どんな些細なものでも不正は起こり得るのだ。

担当とチェックは分ける

 上記の手袋のように、発注と検収を同一人物が担当してしまうと、2000双発注のうち実際の納品が1000双だけで、不足の1000双分を発注者が懐に入れても誰も分からない。確かに日本では、手袋の管理担当者が決まっていて、その人が使用量と在庫の両方を管理し発注もするというケースが多い。しかし、新興国において日本と同じような感覚で任せていると、前述のような不正が発生しかねないのだ。

 すなわち、不正が発生しやすいのは、1人で全てを扱えるようになっている場合である。従って不正防止のためには、担当部門(発注部門)とチェック部門(検収部門)を分け、1人で発注も検収もできるという状態を作らないことが肝要だ。また、チェック部門に対しては、「不正を見逃さないということが職務」であると明示することも重要だ。

 加えて、お金を扱う仕事全てを対象に、買う場合だけではなく、売る場合についても、チェック機能が働くようにしておく必要がある。実際、販売先と共謀して販売促進費を不正支出して懐に入れたり、販売価格で不正を働いたりという事例もある。特に産業廃棄物などは不正の温床になっているケースが多い。経営に影響を及ぼす重要事項は、「トップの決裁が必要」というルールにしておくことも大切だ。