――好きなことではあるでしょうが、ハードですね。

福田 生活の糧を得るという理由はありますが、それ以上に選手たちへの示しという意味もあります。僕らはこれまでアマチュアのチームとして、選手たちには仕事とサッカーの高いレベルでの両立を求めているので、僕自身がサッカー専業になるわけにはいかず、いわゆるサラリーマンとしての生活とサッカーをどこまで両立できるかにチャレンジしたいという思いがあるんです。「俺もやってるんだから、お前らもやれよ。」というのが1つ。

 加えて、サッカーはものすごい勢いで発展してきて、ステークホルダーが多種多様になってきました。JFAのスポンサーでいえば、キリンやみずほフィナンシャルグループなど、日本を代表するトップ企業が名を連ねています。サッカーがビジネスのコンテンツになっている昨今、接する相手もトップ・ビジネスパーソンだったりするわけです。サッカーだけしかやってこなかったと思われたら、それだけでサッカーは下に見られてしまうという危惧もあります。僕は将来どういう立場になるか分かりませんが、トップ・ビジネスパーソンだと自負している人たちと対等に話ができるようにしていたい。そのためにもギリギリまでビジネスマンとしてのキャリアを追求しておきたいと、今もそこに身を置いています。

福田 雅(ふくだ・まさし)●CLUB LB&BRB 共同代表理事、東京ユナイテッドFC 監督、東京大学ア式蹴球部監督、日本サッカー協会監事。1975年生まれ。素行不良により中学校を退学となった後に一念発起。暁星高校に進学し、3年時に全国高校サッカー選手権大会に出場。東京大学経済学部に入学。大学時代は主将を務める。大学卒業後は公認会計士資格を取得。現在、みずほ証券グローバル投資銀行部門マネージングディレクターを務める傍ら、クラブ運営に勤しむ。
福田 雅(ふくだ・まさし)●CLUB LB&BRB 共同代表理事、東京ユナイテッドFC 監督、東京大学ア式蹴球部監督、日本サッカー協会監事。1975年生まれ。素行不良により中学校を退学となった後に一念発起。暁星高校に進学し、3年時に全国高校サッカー選手権大会に出場。東京大学経済学部に入学。大学時代は主将を務める。大学卒業後は公認会計士資格を取得。現在、みずほ証券グローバル投資銀行部門マネージングディレクターを務める傍ら、クラブ運営に勤しむ。

――「生涯キャリア」形成活動の場を提供できるクラブとして、選手のキャリアサポートを進めていると聞きました。

福田 企業から見たとき、我々のクラブに協賛したところで宣伝効果はそんなに大きくありません。だから、スポンサー集めに苦労するのは当然で、広告だけ集めて運営していくのは限界があるだろうなと。そうすると自分たちで独自のビジネスを手掛けていく必要があります。欧州の大きなクラブなら莫大な放映権やグッズ販売のような収益源がありますが、日本の場合はチケット販売の収益もそんなに多くなく、海外に比べれば規模が小さい。日本のJクラブの多くはスクール事業といった普及・育成活動を収益源にしています。

 そうした取り組みで子どもの取り合いをしたくはありません。そもそも、都内には学校や地域のクラブチームを含め様々な育成組織が既にありますので、あえてそこに参入していく必要性を強く感じないのです。だったら、このクラブに集まる人たちのリソースを活用した他の収益源があるだろうと。このクラブを始めるに当たっては、もともと自分の生計を立てるために、税理士事務所を立ち上げようと思っていました。

「生涯キャリア」の形成へ、法律・税理などの3法人設立

 加えて、サッカー選手のセカンドキャリアについては強い問題意識があり、解決策を考えていました。サッカーがうまくてプロの道に進んだものの、数年で解雇され、結果的にスキル無しの中途採用では全然チャンスが無く、新卒で入れたであろう会社にも入れなくなってしまうという実態があります。それは社会的損失です。プロ選手にまでになる人は、それなりの根性もある人だし、世に出せば役に立つ人間だと思います。それを世に送り出せないというのは、サッカー界としても損失です。

 こうした状況の解決は、本来クラブがやるべきだと思うんですよ。例えば大卒で、いわゆる大手企業に就職したら、生涯年収が2億5000万から3億円得られるのに、それを放棄させて、プロの世界に飛び込ませるということは、ある意味、その選手の人生そのものを預かるということです。その事の重大さとその選択に伴うリスクを選手にちゃんと言い含めなければいけないし、そこを理解させた上で選手を預かるというのであれば、そこの先まである程度の責任を持つべきでしょう。

 サッカーがうまかったからプロになった人と、サッカーがうまくなかったから一般企業に就職した人、トータルで見たら後者の方がハッピーな生活を送れるという現状は何だかやるせないです。プロの世界に挑戦して夢破れたとしても、そこから落ちぶれてしまってはいけません。その選手に真剣に関わり、育ててきた人たちの本意でもないでしょうし、クラブとしても一定の責任を持つべきだと思うのです。