顧客にとって距離の近い保険会社

―― やった結果、企業としてどんな発見があったのですか。

西山 今、サッカーをやっている小学生の率が非常に高いということに驚きました。「サッカーやっている人は?」と尋ねると半分以上の手が上がる。地域で非常にメジャーなスポーツ競技になっているということを実感しました。

―― ビジネス面で見て、スポーツへの投資は短期的なビジネス成果につながるのでしょうか。それとも、中長期的なブランド形成につながるのでしょうか。どちらですか?

西山 もちろん、Jリーグとの活動の中で触れ合ったお客様がたまたま保険を検討していて、成約につながったということがないわけではありません。

 しかし、やはり本命は中長期的なブランド形成であって、将来「頼りになる保険会社」「自分にとって距離の近い保険会社」、そういう存在に地域の中でなっておくことが大事だと私たちは考えています。それが最終的にマーケティングの効果にもつながってくると思います。

―― 従来の保険会社は、テレビCMなどのマスメディアを活用したブランディングがメインだったと思います。サッカーというスポーツを活用してのブランディングをやってみて、何か違いを感じますか。

西山 これまで、マスメディアを使った広告や、スポーツのスポンサーシップは、自社がアピールしたいことを広く露出する権利を購入して、企業の名前を売り出していくというやり方でした。

 私たちが今回こだわったのは、競技や団体と一緒の目線で同じように取り組んでいくという点です。一緒に参加して応援をすることでコミュニティーの中に入り込んでいく。その一連の活動を通じて、企業のブランド価値を高めていくということです。そこにスポーツのスポンサーシップの新しい価値があると考えています。

 明治安田生命は全国に89の支社があり、3万人を超える従業員がいます。その一人ひとりがそれぞれの土地に住み、生活し、仕事をしています。普段からお世話になっている自分の地域にJリーグを通じて従業員が入っていくことで、じわじわと「明治安田生命って、地元のクラブに貢献してくれている。地元の目線で地元経済に貢献してくれている」という認知を生み出せるように考えています。

 これは、テレビCMや新聞広告、インターネット広告では伝わらないブランディングです。「明治安田生命は、本当に地元目線で向き合ってくれる会社なのだ」という信頼は、マスメディアでは浸透していかないのです。

「告知・露出」から「同じ目線で向き合う関係」へ(図:筆者)
「告知・露出」から「同じ目線で向き合う関係」へ(図:筆者)
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―― パートナーとしての取り組みと並行して、自社ブランドの調査などは行っているのですか。

西山 Jリーグとの取り組みとは別に、自社のブランドに関する調査で定期的に経年のスコアを追っています。会社がお客様からどう見られているのかを定義し直し、従業員が自社の価値をしっかり理解するためです。本年からスタートしている中期経営計画では会社の経営理念などを刷新しました。ビジョンとして「人に一番やさしい生命保険会社」を掲げて全従業員が共有しています。

 「Jリーグの取り組みを通じて効果が出た」とまではまだ言えませんが、もっともっと時間と労力をかけてやっていかないといけないと考えています。