パートナーと一体となって接点を増やす

―― スポーツ関連のアプリとスポンサーの関係では、これまではアプリ内画面にバナー広告が出る程度が普通でした。今回の新アプリでは、その「同居」というレベルから「協働」というレベルに踏み込んだパートナーシップを構築できる可能性があると聞いています。その仕掛けについてもう少し詳しく教えてください。

杉本 まさにJリーグが「スポンサー」ではなく「パートナー」と呼んでいる理由がそこにあります。「パートナーと一体となって接点を増やし、Jリーグを応援することを通じて地域を応援する」ということがJリーグのミッションでもあります。だからこそ、新たな仕組みが必要だと感じていました。

 現段階では、明治安田生命とイオンの2社とこの新たな取り組みをスタートしています。

Jリーグデジタル デジタル戦略部 コミュニケーショングループ グループマネージャーの杉本 渉氏(写真:筆者)
Jリーグデジタル デジタル戦略部 コミュニケーショングループ グループマネージャーの杉本 渉氏(写真:筆者)

 明治安田生命は全国にアドバイザーと呼ばれる顧客接点を作っている方々が3万人います。おかげさまで、2016年シーズンは、22万人もの方をJリーグの試合に連れてきていただきました。そこで、明治安田生命のお客様がJリーグのファン・サポーターになって地域を応援するきっかけを、もっと提供しやすい仕組みにしようということになりました。

 具体的には、アドバイザーの紹介でこのアプリを使い始めた方には、明治安田生命の特別なコードをプレゼントし、それを入力すると特別なバッジがもらえるという取り組みをまず提供しています。

 イオンでは、位置情報を使ってイオングループの店舗に10回チェックインすると同じようにバッジがもらえる仕組みを導入しました。アプリで関連部分をタップすると地図が現れ、自分の近くにあるイオングループの店舗が出てきて、チェックインできる。つまり、アプリを起点に来店を促進するような仕組みを提供しています。

―― 近年、スポーツのスポンサーシップにおいては、単に露出するだけでなく、もっと様々に活用(アクティベーション)することが重要だと言われています。そういった中で、スポーツをパートナーのリアルビジネスにつなげられる仕組みの提供は意味がある取り組みですね。

杉本 そう言ってもらえるとうれしいです。やはり、これからの中長期的なパートナーシップを考えると、パートナーにもっとメリットがあって、パートナーの課題解決ができて、その結果、Jリーグの課題も解決できるという互いにメリットがある、深いパートナーシップを結んでいくことが大事だと思っています。

 例えば、今回のアプリのゲーミフィケーション機能によって、Jリーグは主に週末の公式戦だけではなく、平日にもアプリを立ち上げてチェックインしてもらうことで、平日にも顧客と接点が持てるようになります。また、そのことが同時に、パートナーがこれまでなかなか会えなかった顧客と接点を持つ可能性につながっている。その意味で、お互いにメリットがあるわけです。

 現在の機能は、序の口のチャレンジにすぎません。ただ、サポーターにとっても便利で楽しい、パートナーにとってもJリーグにとっても良いという「三方良し」の方向性を持ったデジタル戦略を、実際に形にしてリリースできたことはよかったと感じています。

―― Jリーグはデジタル配信については「DAZN」、オンラインショッピングでは楽天、スタジアムソリューションではパナソニックとNTTとの提携を発表しています。これからのJリーグの発展に向けて、パートナーシップの体制は整ってきたと感じますが、どんな可能性が出てくると考えていますか。

杉本 例えば、スタジアムにチェックインするアプリの機能を使って、今日・誰がスタジアムに来ているかが分かるようになれば、来場したサポーターに特別なサービスなどを提供することができます。

 また、アウェイで初めて訪れて土地勘がない方には、帰り方のナビゲーションを提供することもできるでしょう。オンラインショッピングとの連動もできるようになるでしょう。

 チケット、来場、オンラインショッピングなどを共通プラットフォームで連動できるようになれば、デジタルを活用してもっと多くの方の顧客動向をきちんとリアルタイムに把握することができ、スタジアムに来場したサポーターをもてなすことができると考えています。

―― 逆に、今後の課題や取り組むべきことは何でしょうか。

杉本 まずはこのアプリ自体がもっとサポーターにダウンロードされ、使われるようにならないといけないと思っています。システム的にも、もっとバージョンアップすべきところがたくさんあります。

 また、リーグとして提供するこういったデジタルプラットフォームを各クラブがもっと活用できるように支援していくことが必要だと感じています。

 現状は多くのクラブでデジタル分野に詳しい人材が不足していると感じています。どんなに素晴らしいデジタルテクノロジーやプラットフォームを提供しても、最後にそれを使い、魅力ある試合体験を提供するのは「人」なのですから、そこも引き続き強化していきたいと考えています。

(次回に続く)