アスリートの人生において「引退後、どうするか!?」は深刻な問題だ。特に日本のスポーツ界では大きな課題となっている。まして現役時代ですら恵まれた環境ではない競技が多い女性アスリートともなれば、なおさらだ。そんな現状を変えようと、自ら新しい未来を築くため一歩前へ歩み出した元サッカー選手がいる。昨年5月に25歳でフランスのサッカークラブを退団した大滝麻未さんだ。彼女は国際サッカー連盟(FIFA)が運営するマネジメント系の大学院「FIFAマスター」にこの9月、入学した。

 早稲田大学を卒業後、なでしこリーグを経ずフランスの超名門クラブ・リヨンに入団したことは当時話題となり、UEFA女子チャンピオンズリーグの決勝戦でプレーするなど一気に知名度が上がった。その後は浦和レッズレディースへ移籍。2014年12月にはまたフランスに戻ってオナボードウ(EAD)ギャンガンでプレー。半年後に退団した。実は元女性選手のFIFAマスター入学は日本では大滝さんが初だ。しかも今期は大滝さんを含めて女性が2人 (もう1人は辻翔子さん。後編は2人の対談をお届けする)というのも初めてだ。

 なぜ、この大学院に入学を決めたのか。卒業後のビジョンは。どのように女性アスリートの立場を変えていきたいか。大滝さんに思いのすべてを語ってもらった。(聞き手は、上野直彦=スポーツライター)

大滝麻未さん。今年9月にFIFAマスターに入学した(写真:加藤 康)
大滝麻未さん。今年9月にFIFAマスターに入学した(写真:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]

「サッカー選手を辞めた自分に何ができるか」を悩み続けた

―― 今回、FIFAマスターに挑戦するようになった経緯と動機は。

大滝 フランスリーグのEADギャンガンというチーム退団後、これからどうしようかという迷いはずっとありました。現役を辞めようと思った時から次の選択肢をずっと考え続けました。

 最後にプレーしたEADギャンガンは1部リーグで5位という成績でした。退団したのが2015年5月でしたが、実はその年の1月に契約更新の話もあったんです。ただ、この時点で現役引退を決断していました。その後、今までお世話になった大学の教授や先輩に相談していく中で、「サッカー選手を辞めた自分に何ができるのか」を真剣に考えていました。社会で戦っていくだけの経験や自信が自分にないことに気づき、もっと勉強したいという強い思いが生まれたんです。

 年齢的にもまだチャレンジできるし、どうせやるなら現役生活と同じくらいチャレンジングな環境に身を置きたいという思いをベースに選択肢を探していくなかで、何人かの方に「FIFAマスター」を進められたんです。将来的には海外で働きたいという思いもすごく強かったのでまさに運命的な出会いでした。

―― 海外でプレーする、海外で勉強する。海外志向は昔からですか。

大滝 中学生の頃から、海外志向はすごく強くて。中学時代に所属していた横須賀シーガルズという女子クラブは逗子の米軍基地で練習をしていたんですが、外国人の選手と練習試合をしたり、一緒にBBQをしたり、外国人とコミュニケーションするのがすごく楽しかったことを良く覚えています。当時は英語が話せるわけではないのに、1人で基地の友人を訪ねたりしていて、この頃が国際的な感覚を持ち始めた原点だと思います。

―― FIFAマスターのことを知って、どのような展開になったのですか。

大滝 何人かの方にFIFAマスターを勧めてもらってから自分で調べ始めました。1年という期間や、モジュール(複数の科目で構成されたカリキュラムの単位)の構成もとても面白そうですぐにアプライ(出願)することを決断しました。アプライするためにいくつかの論文を用意する必要もありましたし、実際行くことになればすべてが英語ですので、そこから本格的に勉強を始めました。