当たり前を変え、メンバーに興味を持つ

 ラグビー日本代表はそれまで世界で勝てていませんでした。そんなチームが世界と戦えるチームになるためには変化しなくてはなりません。「今までの自分たちの行動と同じままでいいのか」「変えるべきことは何か」「変えるためにはどんなことが必要か」を考え、チームメンバーの「思考力を刺激」し、変化をリードする人が必要だったのです。

 この要素は、エディージャパンの1年目と2年目でキャプテンを務めた廣瀬俊朗選手(東芝ブレイブルーパス、2016年に引退)が発揮してくれたものです。例えば、スポーツ選手はコーチや監督に「頑張ります」「一生懸命やります」といったことを口にしがちですが、こうしたことを言っても何も意味がないので、「頑張ります」と口にすることをやめようということで選手の考え方を変えていきました。当たり前だと思っていたことでもどんどん変えていく。そういうイノベーションのスキルが「思考力への刺激」というリーダーシップの要素です。

 最後の要素が「個々への配慮」です。日本代表には異なるチームから選手が集まってきますから、お互いのことを詳しく知っているわけではありません。いわば寄せ集めのチームです。そのようなチームの場合、特にコミュニケーションが重要になります。ラグビー以外の場面においてもお互いの特徴を知ることが、理想的なプレーを引き出したり、ミスをサポートしたりといったことにつながります。そのため、リーダーには、他のメンバーに興味を持ち、他のメンバーのことを知ろうとすることが求められるのです。

 この要素を養うために、選手同士で話し合う機会を多くしました。リーダーズグループのメンバーは、練習中だけでなく自由時間のときも他の選手たちと積極的に話をしてもらいました。最近はメールやソーシャルメディアでコミュニケーションを取ることも多いですが、相手のことを知るためには面と向かって話をするのが一番ですから、顔と顔を付き合わせて話をするようにしたのです。

 例えば、立川理道選手(クボタスピアーズ)は弟的な存在でしたが、現在の代表チームではリーダーとして活躍をしています。「練習、普段の生活の中でも、一人ひとりの個性を分かっていく。そうでないと、試合でいいコミュニケーションをとってプレーはできないと思います」と話していました。それぞれの選手について理解するスキルを身につけることで、リーダーシップを発揮しているのではないでしょうか。

これまでのリーダーとこれからのリーダー

 これまでのリーダーは、「経験や知識に優っていて、話し上手でトップダウン的に物事を進める人」というイメージだったと思います。しかし最近の研究では、みんなに考える機会を与え、聞き上手で相手の意見を引き出せることがリーダーにとって大事な要素であると考えられています。正しい答えは1つですとか、白か黒というようなことではなく、答えが複数あったり、できる・できないの間で成長中だったりといったグレーゾーンがあってもいいと思いますし、そういうことを受け入れられる人が新しいリーダー像ではないかと思います。

 また、日本には「質問することは恥」と考える風潮があります。実際、日本代表の選手たちもミーティングでエディーさんから「何か質問はありますか?」と聞かれても、最初のうちは誰も手を挙げませんでした。当然、エディーさんは選手たちが理解してくれているものと思って練習を始めますが、選手たちは意図が理解できていないので練習が成り立たない、ということもありました。より良い練習を行うために、そうした雰囲気を打破し、何か分からないことがあれば積極的に質問できるような環境をリーダーたちが率先してつくっていきました。

 ラグビー日本代表のリーダーたちは、こうした環境づくりを通じて、選手全員がラグビーを楽しみ、チームとして世界で戦っていくマインドセットをつくりあげていったのです。

(次回に続く)