リーダーシップはスキル、いかに身につけるか

 私がラグビー日本代表に関わった約4年間、チーム、個人それぞれに対してメンタルトレーニングのコンサルテーションを行いました。まずは、チームに対するアプローチについて紹介します。

 スポーツ心理学において、うまくチームを構築するための要素はいくつかありますが、中でも重要なものの1つが「リーダーシップ」です。私が日本代表に参加したとき「リーダーシップのスキルを持ち合わせている選手はいない」ということを感じました。しかし、リーダーシップは持って生まれた資質ではなくスキルですから、選手たちは私たちのような専門家が伝えた情報から学び、吸収して身につけていくことができます。そのために、様々なアプローチで取り組みました。

 エディーさんと一緒に、リーダーシップを身につけてもらいたい選手を6〜8人ほど選び、リーダーズグループを形成しました。スポーツ心理学では「チームの3割ほどの人間がリーダーシップのスキルを身につけていると良い」とされていますから、毎回の合宿でそうした選手たちと、グループ内でミーティングを重ね、彼らが他の選手たちに対して良い影響を及ぼすことができるように、いろいろな情報を伝え、学んでいってもらいました。

日本代表を変えた“トランスフォーメーショナル・リーダーシップ”

 現在、スポーツ心理学で最も注目されているリーダーシップは「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革型リーダーシップ)」というもので、日本代表の選手たちにもこのリーダーシップを身につけてもらえるよう、働き掛けました。

※トランスフォーメーショナル・リーダーシップとは、チームの他のメンバーが私利・私欲を超えて、チームのために能力を最大に発揮できるように、リーダーが情動的に訴えかけて鼓舞させることでチームに変革をもたらすタイプのリーダーシップのこと。スポーツの分野だけではなく、ビジネスの現場でも注目を集めている。

 トランスフォーメーショナル・リーダーシップに必要な要素は4つあります。それは「理想的な影響力」「モチベーションを鼓舞する」「思考力への刺激」「個々への配慮」というものです。すべての要素をもちあわせるリーダーが理想です。しかしながら、選手それぞれが得意とする要素がありましたので、その要素を伸ばしていくことができるように働きかけをしました。それぞれについて説明します。

 「理想的な影響力」というのは、W杯で日本代表のキャプテンを務めたリーチ・マイケル選手(東芝ブレイブルーパス)が得意なリーダーシップでした。常にハードワークして理想的な行動をとり続ける、チームが信用、信頼できるような行動をとる、いわゆる「背中で引っ張る」プレーを見せるというものです。

 象徴的だったのが、南アフリカ戦の逆転トライにつながるシーンでした。あの場面、リーチ選手は3度もボールを持ち、フィールドを駈け回りました。「足もつっていたし、体も思うようには動かず、本当にしんどかった。でも、あそこで僕がボールを持って前に進んでいかないとチームは勝てないと思った」と本人は語っていましたが、このように、プレーで周囲に影響を与えるリーダーシップのスキルのことを言います。また、プレーだけではなく、道徳や倫理を守ることなど、リーダーにふさわしい振る舞いも含まれます。

 「モチベーションを鼓舞する」は、日々の具体的な目標をチームに伝えたり、そのために必要な方法を提案していったりすることで、チームを目指すべきところへ連れていく、というリーダーシップの要素です。ある程度楽観性を持っていた方がいいですし、うまくいかないときには取り組みの方向性を提案しながら、チームを鼓舞し、チームに明確な目標を伝えるというスキルが必要になります。

 日本人は反省をしがちで、スポーツでも1日の練習を振り返るときに自分の悪かったプレーなど何がダメだったかを考えてしまう傾向があります。でも、スポーツで失敗したプレーや良くなかったプレーをイメージすることはあまりプラスにはなりません。何より、日本代表はたった4年間で世界と戦えるチームにならなければならなかったので、反省をするよりも、日々できたことを確認し、次にすべきことは何かを考えることに時間を割くようにしました。