2020年の東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)を契機に、日本の地方の魅力を世界に発信し、インバウンド需要を呼び込む。それを地方活性化につなげることを目標に多くの市町村が連携するプロジェクトが本格化しつつある。2015年春に設立された「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」(以下、首長連合)の取り組みである。

 2016年4月時点で北は北海道から南は沖縄まで、350市町村(271市、67町、12村)が首長連合に参加を表明。民間企業などによるプロジェクトの提案を受け付け、賛同する市町村が参加を表明する形でプロジェクトを推進する。既に40件以上の事業提案がなされ、具体的な取り組みに落とし込む作業が進んでいる。2016年秋にはプロジェクトの第1弾として、東京の新橋と虎ノ門をつなぐ「新虎通り」に各市町村の物産や祭りなどを集めたイベントショーケースを立ち上げる計画だ。

 この首長連合を設立する音頭をとった人物は、同連合の会長を務める新潟県三条市の國定勇人市長である。「東京オリパラを一つのキッカケに、もっと悪い言い方をすれば『道具』として、世界の耳目が日本に集まるタイミングを逃すことなく、地方も恩恵・果実を得ていこうと思っている」と語る國定市長に、首長連合設立の思いを聞いた。(聞き手は、高橋 史忠、狩集 浩志)

三条市の國定市長(写真:菊池くらげ)
三条市の國定市長(写真:菊池くらげ)
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オリパラの本質は「東京」ではなく「オールジャパン」

―― まず、國定市長が「首長連合」を立ち上げようと考えたキッカケを教えてください。

國定 私が三条市長になって10年ほどになります。その間にずっと思っていたのは、行政の中で「本当の日本」「日本とは何か」を一番良く知っているのは国ではなく、都道府県でもなく、市町村だということでした。

 東京オリンピック・パラリンピックを考えるとき、なぜか「東京対地方」という二項対立の構図が語られることが多い。オリパラのプロジェクトが本格化すると、公共事業の人手不足や建材単価の上昇が地方に影響を与え、地方の公共事業が滞るのではないか。こう考えて、地方では開催を後ろ向きに捉える声が少なくありませんでした。

 でも、その構図は自分の中ではどうも納得できなかった。オリンピックって、そもそもウキウキするイベントのはずですよね。どちらかと言えば、本来はプラスのことばかりだと思います。

 私にとって最初に心に残ったオリンピックは、1984年のロサンゼルス大会です。それは、ロサンゼルスという都市についての記憶ではありません。米国の雰囲気を何となく感じ、それが記憶に残っているわけです。

―― なるほど。分かります。

國定 そう考えると、オリパラの本質は「東京」ではなく、「オールジャパン」だと思うんです。だから、東京オリパラを契機に地方の、というか、日本が持っている、輝いている何かをアピールすることによって日本のファンになってもらう。それを通じて、地方にも恩恵がもたらされる。そういう仕組みをつくる方が望ましいと考えました。

 それを実現するにあたって誰に話をすればいいか。一番良いのは、やはり市町村長の仲間たちです。市町村長は、いわば中小企業の社長なので、それぞれの地域は小さいかもしれないけれど、その中では多くのことを決められる権限があります。

 志のある同じ価値観を持ち合わせた市町村長が同じ方向を向いてプロジェクトを展開していく。それが最も効果的だし、効率的だと考えて首長連合を立ち上げました。そのときの気概は、全部自分たちでやり切るぞというものでした。