私は「世界スポーツ人材100人構想」と言っていますが、優秀だけど世界へ飛び出せない日本人に戦略的に道を作るシステムがあってもいいと思います。例えば、JOC(日本オリンピック委員会)から国際競技連盟(IF)に人材を派遣したり、JFA(日本サッカー協会)から常に欧米や南米のサッカー連盟に人材を派遣するようなシステムです。人がうまく働けるようなシステムをいったん作ってしまえば、後はうまく回ります。実はJFAは、川渕三郎氏がトップのときに同様な取り組みをしていました。現在、韓国はAFC(アジアサッカー連盟)に人材を派遣しています。

 現時点では、日本はグローバルなスポーツビジネスの人材ネットワークが限定されていると言わざるを得ません。だから、異能異才にどんどん出てきてほしい。私は「和僑(わきょう)」という言葉を使っていますが、愛国心があるなら、逆に日本から外へ出て行ってさまざまな経験を積んでほしいと思います。

――イノベーションについてですが、日本と比べ、欧米でそれが起きやすい理由は何でしょうか。

岡部 日本人は真面目で“カイゼン”に優れている一方、英米人は大局観を持って時代の流れに乗るのが上手です。イノベーションはタイミングを逃したら起こりません。スピードがカギです。その点で英米人の方がイノベーションは得意です。

 日本人はタスクさえ与えられれば、世界の中でも優秀だと思います。でも、日本の会社は比較的、人海戦術的な働き方をしており、IT(情報技術)を導入して人を減らし、利益率を高めるという点では遅れています。ビッグデータ/AI(人工知能)時代が到来する今後、これまでのような「新卒一斉採用」といったやり方では、生き残れないのではないでしょうか。

 日本人の性質は変えられませんが、1つ変えた方がいいと思うのが「減点主義」の教育です。これを変えないと、日本は大きく変化しないと考えています。

――欧州では、ドイツのバイエルン・ミュンヘンなどでのIT導入の取り組みが注目されていますが、サッカー界でのIT導入はかなり進んでいるのでしょうか。

岡部 スポーツにおけるITの導入という点では、欧州サッカーが最先端とは言えません。IT化では常に米国がリードし、それを欧州が追従しています。欧州サッカーの強みは人材の流動性にあるので、日本と比べれば新しいものへの抵抗感は強くありません。

 欧米のように人材流動性があり、会社に新しい人が頻繁に入ってきて、また辞めていくという変化に慣れると、新しい考え方に対する「オープン性」は高まります。例えば、私が在籍するTEAM社には弁護士や会計士、イベント、ブランディング、放映権の専門家など多様なバックグランドを持った人たちが外部から入ってきます。それが欧州の“地の利”を生かした強みなのです。

 一方、新卒一斉採用のような慣習のある日本では、気づかないうちに社員の行動様式や思考様式が似てきて変化を恐れるようになる傾向があります。

 こうした人材流動性では日本は不利なのですが、別の点で地の利があります。中国は早晩、世界一の経済大国になります。上海や北京へは、羽田から飛行機でわずか3時間ほどで行けます。この地の利を生かさない手はありません。

 最近、私は仕事を目的に日本に来ることはほとんどなく、「中国に行くからついでに日本に寄る」といった状況です。英語で日本のことを「FarEast(極東)」と言いますが、中国がもし世界経済の中心になったら、そうは言えなくなります。

お金がなければスポーツビジネスはできない

――日本のスポーツビジネス関係者は、その地の利をどのように生かせばいいのでしょうか。例えばサッカーではどうでしょうか。

岡部 中国のプロサッカーリーグ「スーパーリーグ」の現状は、Jリーグの黎明期に似ています。海外からスター選手が数多く参戦し、観客も以前より増えています。マクロ経済の先行きから判断して、まだまだ伸びるでしょう。中国の強みは「資金力」や「改革のスピード」にあります。

 ところが、サッカーのレベルが高くなっているかというと、そうではありません。日本の「部活」のような草の根の強化システムがないからです。急ごしらえでユースチームを作っても、一人っ子政策の影響もあって子供の数は限られているし、最近では子どもにサッカーを真剣にさせるよりも、受験戦争に備えて勉強を重視する親が増えています。中国のサッカーが強くなるのには時間がかかると思います。

 日本のユース世代の育成システムは、アジアで一定の評価を受けているので、お金をもらってこのシステムを提供するWin-Winな関係を築いたり、キャンプを誘致するスポーツツーリズムの可能性もあると思います。

 ただし、中国人はタフなネゴシエイター(交渉人)です。日本がいいものを持っていても、中国にお金で持っていかれたらダメです。確かに中国へ行くといろいろな問題に直面しますが、そこで引いてはビジネスができません。そういう意味で、タフな交渉ができるグローバル人材が必要なのです。

――日本には中国などアジアで“売れる”スポーツコンテンツも多いと聞いたことがあります。

岡部 部活がない中国にとって、日本には羨むようなスポーツコンテンツが数多くあります。例えば、全国高校サッカー選手権を国立競技場でやるとか、六大学野球、大学ラグビーに数万人の観客が集まるなど。それらは、もっと大きなビジネスにできます。

 ただ、日本のスポーツ界には“体育会のカルチャー”があって、お金の話を嫌がる人が結構多く存在します。でも、チャンピオンズリーグという世界最高峰のスポーツコンテンツのビジネスに携わっている立場から、「カネがなかったらスポーツビジネスはできない」と断言できます。

 日本のスポーツがグローバルで戦うのであれば、世界と同じことをやらなくてはなりません。お金ですべては解決できませんが、どんどんお金が回るようなシステムを日本に作っていかなくてはならないと思います。

岡部恭英氏は2017年7月28日、慶應義塾大学大学院SDM研究科が主催するスポーツ産業関連のカンファレンス「KEIO SDM"SPORTS X"Conference 2017」で講演予定