―― 行動力がすごいですね。決断できた理由は。

中田 先ほど話したように最終的には「好きなことに携われる」「ラグビーやスポーツは産業として成長している」「自分の専門性を生かせる」という3点でチャレンジすることを決めました。

 特に専門性については、プロジェクトマネジメントという観点で前職と共通するところが多かったんです。オーストラリアでは、風力発電所の開発プロジェクトを手掛けていました。風力発電事業もステークホルダーが多く、様々な契約で成り立っています。それらをまとめ上げるという経験が組織委員会でも生かせると考えました。

―― 中田さんはラガーマンだったわけですが、今回の公募ではラグビーのバックグラウンドは必要ですか。 

中田 自分がプレーした経験はなくても、ラグビーが好きだったり、ラグビーを含めてスポーツを愛していたりする人であるといいですね。現在の組織委員会には、ラグビー経験のない人も多いです。

 現状は、100人ほどのそれほど大きくない組織です。自分たちの責任で世界的なビッグスポーツイベントのプロジェクトを進めていけるので、仕事としても面白い。発展途上にあるラグビーを通じてスポーツビジネスの環境を良くしようと考え、一緒に大会の成功を目指す経営人材に手を挙げていただきたいと思っています。

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 スポーツビジネスの世界では「Keep yourself in the loop(ループの中にいろ)」という言葉がある。世界的には、スポーツビジネスは「夢の仕事」。そこで職を得たければ、スポーツビジネスの人材ネットワークの近くにいること、そしてチャンスがあれば中に飛び込んでみることが大切というわけだ。それによって、世界で流動する人材ネットワークの情報を入手したり、声が掛かったりしやすくなるのだという。

 スポーツビジネスは、企業の人材育成の場としても効果が大きいという意見は多い。中田氏が話すように、多くのステークホルダーを相手にしながら大きなプロジェクトをまとめ上げる体験がその後のキャリアにも生きるからだ。例えば、米コカコーラ社。スポンサーとなっている五輪やサッカーW杯のプロジェクトは社員がリーダーとしての素養を磨く機会になっており、プロジェクトに関わった後には要職に就く人材が多いという。

 今回のラグビーW杯組織委員会の人材公募で募集を担当する転職サイト「ビズリーチ」の南壮一郎社長は、プロ野球「東北楽天ゴールデンイーグルス」の立ち上げメンバーだった。その当時のメンバーは、多くが別の仕事で起業している。南社長は「決してメンバーが特別な人々だったわけではない。やり直しがきかないプロジェクトのプレッシャーの中で経験という“劇薬”を飲んで覚醒した。世の中に不可能はなく、どんなことでもできると思えるようになった」と振り返る。

 ラグビーW杯を皮切りに、東京オリンピック・パラリンピック、関西ワールドマスターズゲームズと日本では3年連続でメガスポーツイベントが続く。スポーツビジネスを志す人にとってはループの中に入る大きなチャンスであると同時に、日本のスポーツビジネスの課題である経営人材の育成やダイバーシティー(多様性)の実現で大きな役割を果たすことになりそうだ。