カギは民間、熱い思いを住民にどう広げるか

―― うまくいった自治体の取り組みの共通項は。

松橋 調査した4自治体に共通していることは、キャンプ地の実行委員会で民間のネットワークが旗を振って活動したという点です。当然、行政のバックアップはあるのですが、地元の青年会議所(JC)や商工会議所が地元住民の盛り上がりを生み出すように積極的に動いていました。民間による活性化はまちづくりのセオリーではありますが、ホストタウンに関してもこれが大きな成功の条件になっているのではないでしょうか。調査では成功例だけを対象にしたので、今後は失敗例を調べることも必要ですが。

―― 盛り上げ役を担ったのは、やはりサッカー関係者だったのですか。

松橋 いえ、そうではありません。調査した4自治体では、野球やスキーといった別のスポーツの関係者が中心になっていました。これも特徴の1つかもしれません。何かの競技に特化しているというよりは、スポーツが好きだったり、スポーツによるまちづくりに可能性を見いだしたりして、熱い気持ちを持った民間の人々がいたということですね。

―― なぜ、民間の人々が動いたのでしょうか。

松橋 人的な側面もありますが、その地域の伝統や風土が大きいようです。例えば、松本市は古くから商人の町で、その伝統があったから商工会議所が中心となって運営に取り組んだのだと聞きました。その意味では「行政がやっていることだから、周りから見ていよう」と考えがちな地域は、レガシーを残すことが難しいのかもしれません。

 キャンプ地で盛り上がった取り組みを、他の場に移して頑張った地域は現在もレガシーが残っています。言い換えれば、2002年をきっかけとして、その先も見据えて仕掛けることができた地域です。

―― 2020年のオリパラでは、2002年W杯の時と違いがあるでしょうか。ホストタウンの盛り上がりをどう見ていますか。

御園 これからでしょう。例えば、既に十日町市はホストタウンのキックオフパーティーを昨年7月に開催しています。これは先行例です。2018年、2019年と大会開催が近づくにつれて急速に盛りがっていくと思っています。大型スポーツイベントの中でも、オリパラは別格です。その中で何をするか。地域活性化は人と人のつながりを構築することが基本ですから、新しい試みに取り組む中でみんなで汗をかくことで地域づくりの土台ができる。そこに期待しています。

―― オリパラが別格だと考える理由は。

御園 「俺にも私にも、神輿を担がせてくれ」と考えるテンションの高さが違うと思いますね。自分が生活する地域内だけの取り組みだと「忙しいから寄合に出ない」という人が出てくるけれど、オリパラのホストタウンとなったら「何で俺を呼ばないの?」という人が多くなるのではないかと(笑)。

松橋 今回のシンポジウムで私が担当するテーマでもありますが、パラリンピックが入っているのが大きな違いだと思っています。オリンピックは各競技でそれぞれ1つのルールに則って1番を決める。一方で、「違いがあるのならルールを変えればいい」というのがパラリンピックだと思います。

 つまり、多様性(ダイバーシティー)を認めることがパラリンピック的であるわけです。地域活性化や地域共生の取り組みは、多様性を認めていくこととイコールです。紋切り型で他の地域と同じことをやっては地域活性化は成功しないわけですから。