2015年12月9日、サッカークラブの世界一を決めるFIFA(国際サッカー連盟)クラブワールドカップ(FCWC)の開催前日に、サッカー界の新潮流を象徴する出来事があった。2005年から同大会の冠スポンサーを務めていたトヨタ自動車に代わり、2015年から2022年までの8大会で中国の電子商取引大手、アリババ集団が同スポンサーにつくことが発表されたのだ。これは、中国の「爆買い」が世界で最も人気があるスポーツの勢力図を揺さぶっている事例の一端に過ぎない。サッカービジネスにおける中国の影響力の急騰ぶりを、欧州の最前線で目の当たりにしている、スイスTEAM Marketing社 Head of Asia Salesの岡部恭英氏の講演(主催:スポーツビジネスアカデミー、2015年12月22日開催)から見ていく。
スイスTEAM Marketing社  Head of Asia Salesの岡部恭英氏
スイスTEAM Marketing社 Head of Asia Salesの岡部恭英氏

TEAM Marketing社はUEFA(欧州サッカー協会)のマーケティング・エージェンシーで、「UEFAチャンピオンズリーグ」という、世界でも最高の質を備えるベストなサッカークラブのリーグ、そしてヨーロッパリーグなどの放映権やスポンサーシップ販売を始めとする全ての商業面を担当している会社です。そこで、私はアジア、オセアニア、中東、北アフリカ地区の統括責任者を務めています。

 TEAMとUEFAの関係は、「スポーツマーケティングにおいて世界で最も成功しているパートナーシップ」の一つと言えるかもしれません。通常、放映権などを保有するスポーツ団体(ライツホルダー)は自らビジネスを展開するか、もしくは年や国ごとに異なる代理店に任せます。しかし、私たちの場合は資本関係もないのに、リーグ発足から20年以上にわたって、決勝戦になると単年では世界で最も視聴される「チャンピオンズリーグ」での協力関係が続いているからです。

「25年にスポーツ産業を85兆円市場に」

 欧州を拠点に世界でビジネスをするなかで日々感じているのが、欧州サッカー界における中国の存在感の急上昇です。

 2014年10月、中国政府は2025年までに中国のスポーツ産業を5兆元(約85兆円)の市場規模にまで成長させる、とぶち上げました。
 中国では中央政府が政策のガイドラインを出すと、地方政府がそれに沿った具体的な計画を作成します。中央政府のアクションを受けて計画を発表した26州の目標値を合計すると、市場規模はなんと約115兆円にまで膨らみます。これを絵空事という見方もありますが、これまで中国は計画経済にて多くを達成していますし、私は実現する可能性も大いにあると考えています。

 2015年10月には、国家主席の習近平氏が欧州を歴訪した際、英国のビッグクラブの一つ、マンチェスター・シティーを訪問し、主力のセルヒオ・アグエロ選手とセルフィー(自撮り)をしました。習氏はサッカー好きで知られ、中国をもっと強化したいと願っています。
 この後、何が起こったのか。上海を拠点とする投資ファンドの華人文化産業投資基金(CMC)がマンチェスター・シティーを所有する英シティー・フットボール・グループ(CFG)の株式の13%を取得しました。