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スポーツ、世界への突破力

五輪プロジェクト、将来の企業担う人材発掘の場に

達人・高橋オリバー氏に聞く、スポーツマーケティングの要諦(下)

2017/04/10 05:00

上野 直彦=スポーツジャーナリスト

「結局のところ、スポーツマーケティングをきちんと手がけている企業はコカ・コーラしかない。あとはまねをしているだけだ」

 数年前にマーケティングの専門家から聞いた言葉だが、決して的はずれではなく、オリバー高橋氏の言葉を聞いていると納得する部分が多い。実際、スポーツ大会の協賛企業の多くがアドバイスを受けるため、渋谷にある日本コカ・コーラを訪れると聞く。

 2020年以降に向けて大きく飛躍を求められるのはアスリートだけでない。スポーツを通じた企業によるビジネスのアクティベーションも同様である。

 日本コカ・コーラの東京2020オリンピック ゼネラルマネジャーを務める高橋氏のインタビューの最終回。今回はスポーツビジネスの本質や、高橋氏が描く未来を語ってもらった。

(聞き手は、上野 直彦=スポーツジャーナリスト)
高橋オリバー氏(写真:加藤 康)
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五輪で働くことが社員のモチベーションに

―― コカ・コーラ社は、スポーツイベントの取り組みを社内でどのように生かしているのでしょうか。

高橋 「システム・モチベーション」という取り組みを通じて、グループ内の社員に参加してもらいます。例えば、大会期間中にコカ・コーラのクルーとして会場内販売や選手村への商品入れ替えなどの仕事を現地の法人と一緒にやるというような取り組みで、かなり大きな反響があります。

 通常、五輪は開催地だけで完結してしまうのですが、リオデジャネイロ五輪では、ブラジル全土の社員を巻き込みました。さらに、南米は地続きで各国の言語も同じか近い地域なので、アルゼンチンやウルグアイ、パラグアイ、コロンビア、チリなどのコカ・コーラ社員を巻き込んだシステム・モチベーションも仕掛け、大会期間中に、一緒にクルーとして働いていてもらいました。

―― 面白い取り組みですが、成果はどうだったのですか。

高橋 五輪会場で仕事をするという経験は、なかなかできる機会がありません。米マクドナルド社も、グローバルの社員向けに同様の取り組みをやっていますが、やはり反響は大きいようです。

 リオ五輪では、日本からも10人ほどのスタッフが現地に行って、どういうオペレーションをしているのかを体験しました。東京五輪に向けたナレッジトランスファーですよね。あなたたちは、4年後にこういうことをやらないといけないんですよということをグループ内で伝える取り組みです。

―― コカ・コーラ社では五輪開催地が決まってから5年ほどをかけて準備して、最終的には1200人規模のチームになると話していましたが、投資に対するリターンはどのような規模感で考えているんですか。

高橋 ROI(投下資本利益率)的なところですよね。スポーツ関連でROIを測るのはすごく難しい。特に五輪は様々な要素が絡んでくるので。もちろん、スポンサーシップのフィーを出していますから、会期後に大会を振り返って大会期間中にどれだけ商品が売れたかといった数字は出てきます。ただ、お金には換算できない、より重要な効果も多い。だから、大会前後だけでROIを定量的に深く追求するという印象ではありません。

 例えば、リオ五輪であれば、先ほど話した小さいサイズのペットボトルを普及させるというレガシーの設定があって、大会を通してブラジルでの訴求はかなりうまくいきました*1。でも、それでレガシーが確立できたとは言い切れません。本当に成功したかどうかは10年後、20年後でないと見えてこないからです。

*1 リオ五輪でのコカ・コーラ社のレガシーについては、前回の「五輪開催5年前から準備、コカ・コーラの6ステップ」を参照

 僕の個人的な意見になってしまうかもしれませんが、人材開発という観点も大きいと思います。社内では、五輪のプロジェクトから将来のコカ・コーラのブランドを担う人たち出てくる、それを発掘する場にしなければならないですねという話をしています。

 実際、五輪やW杯のプロジェクトに関わった後、要職に就く人はとても多いんです。普段は上司の判断を仰ぐ時間がありますが、大きなスポーツイベントでは、その場で自分なりの判断を下さなければなりません。すごく短い時間の中で頭をフル回転させる必要がある。スポーツイベントの取り組みは、リーダーとしての素養を学ぶ良い機会になると思います。

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