―― 確かに、スポーツを楽しむ文化は日本の課題かもしれません。体育も、軍事教練の名残があります。しかも、体育嫌い、運動嫌いの子が小学校や中学校で激増しています。特に、中学校や高校の女子では深刻な数字も出ていますね。

高橋 実は先日、あるスポーツメーカーの方に聞いたのですが、最近は学校で運動系の部活動に入る生徒が3割しかいないそうです。3割ですよ。その時、2020年の東京五輪に向けて、シリアスなスポーツでなくてもいいから、体を動かすことの楽しさを訴求していかなければならないという話になりました。

 今、コカ・コーラ社では、若者の運動不足解消を目指して、IOCと共同の「オリンピック・ムーブス」というプログラムを展開しています。日本では中学校を回って「イモムシラグビー」「バブルサッカー」といった、いわゆる“ゆるスポ”で体を動かすことの楽しさを訴求するイベントを開催しています。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
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 ガチでサッカーや野球をやるのもよしですが、やはりそれとは別の「スポーツの楽しみ方」があると思うんです。でも、残念ながら今の日本には非常に少ない。五輪でもパラリンピックでも、アスリートがメダルを獲得する瞬間、一生懸命にプレーしている姿を見ると感動するはずです。間違いなく。テレビでもライブでもいいから、できるだけ観戦してほしい。どうやって子供たちのアクティビティの中で、1日のうち5分でもいいから体を動かす習慣につなげていくかが大切です。

 これから日本の人口は減っていきます。3割の子どもしか学校の運動部に入らないという状況では、日本のスポーツの未来は非常にさびしいことになってしまう。だから、僕自身はジュニアやユース世代の育成に興味を持っています。

 日本は、ユースやジュニアを育てるノウハウをたくさん持っています。でも、それをうまく生かせる組織のトップ、つまりマネジメント人材がいません。プログラムはある、やりたいという子供たちもいる。にもかかわらず、組織のマネジメント層がユースデベロップメントに時間や費用を費やしていません。中には、日本サッカー協会の「JYD(JFA Youth Development Programme)」といったうまくいっているプログラムもありますが、もっとデベロップメントが必要な競技があります。これは、日本のスポーツ界の大きな課題だと考えています。

―― スポーツビジネスを手掛ける中で、オリバーさんが信条としていること、大事にしていることは。

高橋 朝起きて、楽しく会社に行ける環境ですね。「あぁ、今日も会社に行ける」と思えないとつまらないじゃないですか。そのためには、自分がやっていることに自信を持てないとダメです。そして、それが楽しくないと。僕は運よくずっと楽しい仕事をやらせていただいているので、ラッキーだと思っています。自信をもって、日本のスポーツのために、コカ・コーラのために、その先にいるアスリートのためにということを考えながら、仕事をやらせていただいているつもりです。

 ビジネスでは「ギブ&テーク」とよくいいますが、「ギブ、ギブ、ギブ」していれば「テーク」は自ずとついてくると思うのです。営業で数字を追い掛けている人から見ると、「お前、何を言っているの?」と指摘されてしまうかもしれませんが、僕はそう思っています。テークの部分は、きちんとやっていけば自ずとついてきます。これはコカ・コーラに限らず、他のどの人の仕事も同じではないでしょうか。

上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト
上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト 兵庫県生まれ。早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグも長期取材している。『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。テレビ・ラジオ番組にも出演。初めてJユースを描いたサッカー漫画『アオアシ』で取材・原案協力。構成や編集に協力した書籍に『全くゼロからのJクラブのつくりかた』(東邦出版)、『ベレーザの35年』(ベレーザ創部35周年記念誌発行委員会)、『国際スポーツ組織で働こう!』(日経BP社)、著書に『なでしこのキセキ川澄奈穂美物語』(小学館)、『なでしこの誓い』(学研教育出版)がある。NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」を好評連載中。Twitterアカウントは @Nao_Ueno