―― 今年のいつごろまでにレガシーを設定するのですか。そのために最も大事な要素は。
高橋 今年の6月までに、東京五輪のレガシーを確立したいと考えています。
正直に言うと、レガシーの設定はいつも苦しみます。重要なのは、「レガシー=ビジネスの目的」ではないということです。レガシーは大会が閉幕した時に、「うまく確立できた、できなかった」という評価はできません。ずっとその先、20年後、50年後に「そういえば2020年の五輪のレガシーがあったから、今の日本はこうなったんだよね」と言えることが重要です。「2020年五輪におけるビジネスの目的は何なのか」という話は、その後に出てきます。順番を間違えてはいけません。
―― レガシーの設定は、日本企業が最も苦手なところです。3年前に設定して、五輪開幕までどのように展開するのですか。
高橋 設定したレガシーを基に、2020年の大会期間中にプロモーションに使う、会社としての「VIS(ビジュアル・アイデンティティー・システム)」の制作を始めます。デザイナーがレガシーをイメージしながら、プロモーション用のビジュアルを作っていくわけです。例えば、リオデジャネイロ五輪ではボトルから5本の曲線が出たビジュアルを全てのプロモーションに使いました。
その後、細部まで詳細を詰めたプロモーションについて来年から約1年かけてのプランニングし、それを受けて実際のアクティベーションが始まるという流れになります。だいたい18カ月ほど前からコンシューマーへの訴求が始まります。ただ、今回は前年の2019年にラグビーワールドカップ(W杯)が日本で開催されるので、タイミングを見計らいながら進めていくことになると思います。
そして開催直前の準備や期間中の取り組みを経て、閉幕後の3カ月ほどで大会の取り組みを総括し、次の大会にナレッジを継承していくわけです。
―― コカ・コーラ社にとっては当たり前のステップなのかもしれませんが、経験のない企業にはなかなか簡単ではないですね。先日もある大学で開催されたスポーツマーケティングの勉強会で、多くのスポンサー企業の担当がオリバーさんのお話を食い入るように聞いていました。直接聞きに来る他の企業の担当者もいらっしゃるのでは。
高橋 そうですね。もちろん弊社として共有できることは共有しています。国内では、内閣官房参与の平田竹男さん(早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授)を筆頭に、会場内の食品・飲料の販売に関わるスポンサー企業が集まるコミュニティーがあって、より多くの日本の食材を使って外国から来るお客様におもてなしを提供するためにディスカッションをしています*1。この集まりは、結構面白いですよ。
東京だけで終わらせたくない
―― 昨年のリオ五輪での取り組みから得た教訓はありますか。
高橋 リオ五輪の教訓の1つは、開催国全体をどう巻き込むかということでした。ブラジルは国土が広いこともあって、例えば、サンパウロの人々は五輪を無視していたわけでないのですが、「何か隣の町でお祭りをやっている」ぐらいの意識という印象もありました。
今回は日本を1つにする方法を考えています。日本はブラジルより国土が小さいとはいえ、容易ではありません。でも、やり方によってはうまくできると考えています。我々のモットーは、「東京2020」ではなく「日本2020」です。東京だけで終わらせたくないのです。