―― どの大会も大きな問題を抱えながら、それを解決してきているわけですね。その中で、コカ・コーラ社はスポンサーシップの権利をうまく活用する新しいアイデアを出し続けている。

高橋 いい例があります。五輪関連だと、聖火リレーは皆さんもご存じですよね。コカ・コーラ社は、1992年のバルセロナ大会からスポンサーとして聖火リレーの支援を始めました。その際に開催国以外からも聖火ランナーを募るなど、オリンピックを地球規模で盛り上げています。この取り組みは、コカ・コーラ社がIOCにアイデアを持っていき、「それは面白い。じゃあ、やろう!」と決まったプロモーションです。

―― そうなんですか。1992年以前も行われていたと思っていました。

高橋 コカ・コーラ社の提案なんです。昔からあったわけではありません。他にもサッカーW杯では、大会開催前に各国を優勝トロフィーが巡っていくトロフィーツアーが開催されていますが、あれもコカ・コーラ社がFIFAに提案したものです。始まった当時、私はFIFA側にいてオペレーションをやっていたので事情をよく知っています。今では大会ごとにトロフィーツアーを開催していますね。

フェラーリを買っても、免許を持っていない

―― 分かりやすい例です。五輪スポンサーにはなったものの「何をやったらいいか分からない…」という日本企業が多い。どうすれば改善できますか。

(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
[画像のクリックで拡大表示]

高橋 スポンサーシップの権利を欲しくて買っているのではなく、「買わされている」からだと思うのです。オリンピックのスポンサーにならないと乗り遅れちゃう、買うのがトレンドだから、といったような…。

 よく言うのですが「フェラーリを買ったはいいけど、免許を持っていなかった」といった感じではないでしょうか (苦笑)。買う前に「権利を行使して何をするのか」というアイデアがないままに買っている。これでは買ってもらった側もうれしくないし、買った側も困ってしまいます。

―― 現在、東京五輪のスポンサーはワールドワイドと国内を合わせて54社ですが、どう変えていけばいいのでしょうか。

高橋 最終的には100社を超えるともいわれていますね。ゴールドパートナーとオフィシャルパートナーがあって、もう1つの3つめのカテゴリーの募集があれば、そうなるのでしょう。

 スポンサー企業は、自身で何ができるかを真剣に考えないといけません。まずは、スポーツを知ることが重要です。これは五輪だけではなくて、様々な企業が様々なスポーツや選手のスポンサーになっています。そこで単にロゴを付けるだけではなく、スポンサーとしての権利をどう生かして自社の商品の販売につなげるか。スポンサーになった競技を通じて、どのように自社ブランドを拡散していくか。見返りとして売り上げが伸びる構図をどうつくっていくか。ここをしっかりと構築する必要があります。

―― 海外企業は、スポンサーシップの権利をどのようにアクティベーションにつなげているのでしょうか。

高橋 例えば、IOCのトップスポンサーのレベル、例えば米マクドナルド社や米VISA社などは、アクティベーションが上手ですよね。

 FIFAに在職していた時にスポンサー企業には、「『1クールでスポンサーを4年間やって、その後にやめちゃいました』ではダメです。4年、8年、12年、20年と継続していかないと意味がありません」と話していました。大会が終わった段階で「あの時にあれをやっておけば良かった。これをやっておけばよかった」と、初めて学びが出てくるからです。それが次の取り組みで改善につながっていきます。だから、今回、五輪のスポンサーになった企業には、これからのスポーツイベントでも継続していってほしいですね。

 まだ日本に来るかどうかは分かりませんが、札幌で冬季オリンピックが開催されるかもしれないし、2023年に女子のサッカーW杯を日本で開催したいという声も聞きます。そうした大会で2020年に五輪スポンサーを手がけた経験が必ず生きます。日本だけではなく、これからアジアの国々でも大型イベントが増えるでしょう。この数年間は、日本企業のスポーツマーケティングを活性化するために大事な時期です。

(次回に続く)

上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト
上野 直彦(うえの・なおひこ)/スポーツジャーナリスト 兵庫県生まれ。早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員。ロンドン在住の時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグも長期取材している。『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。テレビ・ラジオ番組にも出演。初めてJユースを描いたサッカー漫画『アオアシ』で取材・原案協力。構成や編集に協力した書籍に『全くゼロからのJクラブのつくりかた』(東邦出版)、『ベレーザの35年』(ベレーザ創部35周年記念誌発行委員会)、『国際スポーツ組織で働こう!』(日経BP社)、著書に『なでしこのキセキ川澄奈穂美物語』(小学館)、『なでしこの誓い』(学研教育出版)がある。NewsPicksで「ビジネスはJリーグを救えるか?」を好評連載中。Twitterアカウントは @Nao_Ueno