多くの人に届けたい

 Ramiの開発に当たっては、3Dプリンティングの適用と合わせて、3Dデータを作成するまでのデザインプロセスの開発も進めている。人体をスキャンし、強度解析などのシミュレーションと連携させながら自動的に3Dデータを作成させる技術である。条件を入力して形状を最適化するという機能だけでなく、その条件そのものを決めるところに難しさがありそうだ。

 従来の義足は、熟練技能を持つ義肢装具士が経験に基づいて義足を仕上げている。単に人体表面の形状を計測するにしても、押せば凹むほど柔軟な形状をどう取得するのかは判断が難しい。骨格の影響も少なくないはずだ。どのように計測し、その結果をどう判断して義足の形状へと反映させるのか、というロジックを見出さなければならない。

 目的とするのは、義足を必要とする人に対して、最適なものを短時間かつ低コストで提供できるようにすることだ。個別最適化によって満足度が向上しても、多くの人にコンスタントに供給できる体制が整わなければ事業として継続、発展させるのは難しい。マス・カスタマイゼーションの実現には、個別最適化と同等以上にコスト削減や期間短縮といったノウハウが求められる。大量生産を前提とした仕組みとは異なるものの、従来のものづくりで培ったノウハウを適用できる部分もありそうだ。固定部と可変部にモジュールを分けるといった方法も考えられる。

 このような最新の3Dプリンティングによる義足製作を試みる一方、スポーツ用義足の基礎研究としては従来工法を適用した基礎研究も続いている。今回は、高桑早苗選手が現在使用している義足の3Dデータから作製した炭素繊維強化樹脂(CFRP)製ソケットの義足を展示(図2)。レーシングパーツなどを開発するアールディーエス(本社埼玉県・寄居町、RDS)と共同開発したものだ。選手が試しに装着してみたところ、その軽さに驚き「試合で使ってみたい」と高い評価を得られたという。

図2 炭素繊維強化樹脂(CFRP)製の超軽量な陸上競技用義足。慶應義塾大学准教授の仰木裕嗣氏の協力のもとで運動解析を行い、F1などのスポーツカーのパーツを製作するRDS と共同で開発した。
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