数年前、筆者がとある競技場でフリーWi-Fiを利用していたときのことだ。

 観客が少ないうちはWi-Fiを快適に利用できていたが、競技開始時間が近づき観客が増えるに従って電波の入りが悪くなり、しまいにはWi-Fiピクト(携帯の画面上にあるWi-Fiマーク)が1本になってしまった。観戦場所は変えなかったので、変わったことといえば周囲に人が増えたことだけである。電波の入りが悪くなると、通信速度の低下や通信できなくなる現象が発生する可能性がある。しかし壁ならまだしも、人がWi-Fi電波の飛び具合を左右することが果たしてあるのだろうか。

「壁」は跳ね返す、「人の壁」は吸収する

 人が密集する場所におけるWi-Fiの通信速度低下には様々な要因があるが、人が多く集まることは速度低下の一因になり得る。「人の壁」が出来上がり、電波の飛び具合に大きく影響するのだ。

 昔、何かのテレビコマーシャルで「人間は、水分でできている」といったようなフレーズを見た記憶があるが、この事実がとても大きい。電波は水分に吸収され減衰してしまう性質があり、人体も電波を減衰させてしまう一因となる。多数の人が集まるイベント会場やスタジアムなどでは、電波の減衰が非常に大きな影響として現れるため、アクセスポイント(AP)を単純に設置しただけでは利用できなくなってしまうのである。

 例として、当社が設計と構築を手掛けた楽天koboスタジアム宮城のWi-Fi環境を紹介しよう。楽天イーグルスファンの方はスタジアム内の様々な場所で写真1のような四角いアンテナを見たことがあるのではないだろうか。スタジアムでは野球観戦が最も重要なことで、視界の邪魔にならないように座席の下など、低い位置にもアンテナが設置されている。

写真1●楽天koboスタジアム宮城に設置されているAP(アンテナ)
写真1●楽天koboスタジアム宮城に設置されているAP(アンテナ)
(撮影:MKI 厚田大輔)
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 試合日には、写真2のように多くの観客が訪れ、アンテナと利用者の間には 「人の壁」が何層にも連なっている状態となる。一般的なスタジアムではAP1台当たり300~500座席をカバーできるように設置されているが、楽天koboスタジアム宮城ではスタジアム全域で快適にWi-Fiが利用できるように250台ものAPを配置している。国内では有数の高密度Wi-Fi設計で、平均でもAP1台当たり120座席をカバーしている計算になる。このような場所では、人体が壁になることを想定したうえでAPの設置場所を設計することが非常に重要である。

写真2●試合中の楽天koboスタジアム宮城の様子
写真2●試合中の楽天koboスタジアム宮城の様子
(出所:楽天野球団)
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