本記事は、日本機械学会発行の『日本機械学会誌』、第119巻第1172号(2016年7月)に掲載された記事の抜粋(短縮版)です。日本機械学会誌の目次、購読申し込みなどに関してはこちらから(日本機械学会のホームページへのリンク)

 競技選手が良い成績を継続するには、日頃の鍛錬による競技力の向上だけでなく、スポーツ障害の予防も重要である。スポーツ障害は過度な運動の繰り返し(オーバーユース)や動作の不具合によって生じる。オーバーユースによる障害は骨が脆弱な成長期選手に多い。スポーツ障害によって練習を長期間休止すると選手として重要な成長期間を失い、損失は計り知れない。また、女性選手は男性と同じ規格で競技を行うと動作の不具合が生じやすい。一般的には男性よりも体力・筋力が劣り、特有の骨格上の特徴や症状もあるためだ。近年の女性競技種目の増加もあり、女性選手のスポーツ障害の増加が懸念されている。

 選手の競技力を安全・適切に向上させるには、スポーツ障害の要因を生体力学的観点で解明し、その結果に基づいて選手やコーチ、トレーナー、医療従事者が一貫して対応する必要がある。選手が使う用具を提供するメーカーの責任も大きい。筆者はさまざまな計測機器で成長期選手や女性選手のスポーツ動作を分析してきた。その結果の一部と用具開発への課題について紹介する。

成長期にある野球選手の投球動作分析

 成長期にある野球選手の投球による肩・肘関節の障害は、投球過多や未熟な投球動作、未発達な身体などが要因で発生するとされるが、明らかではない。特に小学生は、肘関節障害が多発しており、投球障害の予防や早期発見・治療が重要な年代である。そこで、どのような対応が適切かを検討するため投球動作分析を行った。

 小学生から高校生までの成長期野球選手158名の投球動作を分析したところ、高年代ほど踏み込み力や体幹回旋量、腕振り速度が増加し、技術的成長が見られた。一方、肩・肘のモーメントは年代間に差がなく、関節構造が未発達な小学生も肩・肘関節への負荷が高年代と同等に生じていると推察された。さらに小学生野球選手74名の投球動作分析で得られた肘関節への負荷で比較すると、肘関節への負荷が低い群では体幹の推進力やねじれ運動が優れ、負荷が高い群では上肢に依存した動作で運動連鎖が破綻していた。

 投球障害の予防には投球動作の技術向上と身体的成長を考慮した機能向上の指導に加え、投球数を制限するなど、疲労を管理する体制の整備が必要である。また、投球障害を防ぐ目的で販売されているさまざまな用具の効果は現在分析中だが、これまで得た成果を加味して新たな用具開発につなげられるよう努めたい。