古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 さまざまな視点があるだろう。だが、本コラムの基本テーマである「強い工場」とは、「経営に貢献する工場」と言い換えられると思う。これは単に狭義のコストダウン、つまり製造原価の低減にとどまるものではない。新しい商品やサービスをより効率よく生み出せるという攻めの側面もある。また、キャッシュフローに貢献することも強い工場の役目だ。すなわち、在庫や運転資金を圧縮できることである。

 強い工場、すなわち経営に貢献する工場になるためには、工場で行われている「ものづくり」が経営視点で行われていなければならない。ここで、企業の幹部が生産現場を含めた社員に訓示をする場面を思い起こしてみよう。聞こえてくるのは、「我が社の経営状態」「売り上げの拡大」「利益の追求」といった言葉の羅列ではないだろうか。日々の業務で汗を流している社員からすれば、自分とはかけ離れた話をしているように感じるだろう。

 経営視点でのものづくりとは、小難しい話をして管理者と生産現場との温度差を広げることではない。工場の管理者の役目は、工場の誰もが具体的に「こうすればよいのか!」と納得して理解できる行動を指し示し、それを実行させることで経営数字を好転させることである。

あるある事例

 経営陣からコスト改善という課題を与えられた新任工場長のA氏は、まず改善の着眼点を探すために生産現場をつぶさに歩いて回った。この現場視察をして気になったのは、工場内の物流だ。工場の中では、資材課の物流班が多数のフォークリフトを使って頻繁に物を運んでいた。

 ムダを削減するためには、物流の削減が必須だと考えたA氏は、物流の合理化を積極的に進めることにした。例えば、原料倉庫から生産ラインへの原料や資材の搬送回数が多かったことから、原料を可能な限り一括して生産ラインに運ぶ取り組みを進めた。従来は生産ロットごとに原料を生産ラインに搬送していた。それを1日分、あるいは複数日分の原料をまとめて生産ラインに搬送することで、搬送回数の大幅な削減を実現した。

 加えて、原料の納入業者に対し、原料倉庫ではなく生産ラインに直接納入してもらうことで、倉庫作業の省人化を実現した。これらの結果、工場における物流担当者の人員削減とフォークリフトの台数削減という大きな成果を得ることができた。

 ところが、これらの改善活動が一方で大きな問題を引き起こす結果となった。それは、生産現場の大混乱だ。従来は、1ロット分の原料のみが生産ラインの横に置かれていたのに対し、その何倍もの原料が一気に運び込まれるようになったのだ。さらに、納入業者から原料を生産ラインに直接納入することも始まったために、まるで倉庫の中で生産をしているような雑然とした生産ラインになってしまった。

 最初は、「原料が豊富にあれば、生産計画の変更に対応しやすいだろう」、あるいは「生産ラインのトラブル時の対応が早くできるだろう」と安易に考えていた。しかし実際には、生産現場に物があふれてしまったために、「必要な物を探す」「欲しい物を取るために別の物を動かす」「物が邪魔なので移動する際に遠回りをする」といったムダな作業が急増した。結果は言うまでもなく、生産現場の生産性や作業効率が大幅に低下してしまった。

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