あるある事例

 会社から業務改善の指令を受けた工場長のA氏は、まず会議の見直しをしようと考えた。工場では毎月多くの会議が開催されているが、誰もが会議は業務の中で付加価値が低いものだと感じていた。

 A氏は工場長に昇進する前の課長時代、「会議なんて時間のムダだ」「キーパーソンが職場の一角に集まって話をすれば大抵のことは決まる」と考えていた。しかし、工場長になってみると、「最終判断を下すのも、その判断の責任を負うの自分である」ということに重圧を感じ、いろいろな意見を聞かなければ判断できないと苦慮する状況に直面することになった。不思議なもので、会議の多さに不平を言う課長がいる半面、会議に呼ばないと「俺はそんなこと聞いてない」とへそを曲げる人もいた。こうした状況にA氏は疑問を感じつつも、工場長に就任して以来、前任者から引き継いだ会議をそのまま進めるしかなかった。

 A氏はかつて上司であったB氏に相談することにした。話を聞いたB氏は、「会議に疑問があるということは、その会議は何を目的に行うのか定まっていないからじゃないのか」と切り出した後、こう言った。「会議をムダと考える人の多くは、会議では物事が決まらないと感じているからだ。ということはつまり、君の工場の会議では何も決断されていないということだ。一方、会議を必要と考える人の多くは、会議がないと情報の共有ができないと考えている。つまり、君の会社は会議以外では情報の共有がうまく行われていないということだ」──。

 B氏は、A氏の工場で会議が有効に機能していないのは、会議が情報共有と議論の場になっていて決断が行われていないこと、そして本来ならば会議で議論をするために事前に関係者が情報を共有しておかなければならないのに、会議の場になって初めて情報が開示される状況になっていることを喝破した。

 最後にB氏は、「君の工場では仕事のやり方のまずさを会議で補っているのではないか? だから、多くの人が会議に不満を持っているのだろう。そういうのを“残念な会議”というのだ」と言って締めくくった。A氏はこのアドバイスを受け、目先の会議の合理化ではなく、仕事の見直しそのものが必要だと強く感じたのだった。

残念な会議にしないためにどうするべきか

 あるある事例で紹介した “残念な会議”にしないためには、まず会議の目的を明確にする必要がある。会議の参加者は、決断を期待して来た人や、詳細な討議を期待して来た人、情報を知りたくて来た人など、それぞれの思いを抱えている。そのため、会議の目的を明確にしない場合、どうしても意見や行動がかみ合わなくなってしまう。

 決断することを目的とした会議であれば、決断に必要な情報が不足なく準備されていることが求められる。しかも、その情報は各部門で事前に分析・討議されていることも重要なポイントだ。各部門での分析・討議の結果が会議で報告され、その内容を踏まえて関係者や責任者が決断を下すことが望ましい。

 このパターンでよくある失敗例は、各部門で事前討議を実施しないまま、会議の中で分析・討議を行うことだ。多くの場合、討議の中で新たな課題が見つかり、そう簡単には結論がまとまらない。そのため、会議の時間内で議論が進展しない。結果、決断はされず、議論も積み残したまま会議は終わってしまう。そう、“残念な会議”になってしまうのだ。

 情報共有や詳細な討議だけを目的とした会議は意味がない。情報を共有し、そこからどのような行動につなげて、詳細に討議することで何をしたいのかという本来の目的を明確にして会議を推進することが重要だ。さもないと、情報を共有するだけ、討議は深まるだけの何も進展ない“残念な会議”になってしまう。

 最後に、ある組織に実在したマニュアルの一部を紹介しよう。

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 これは第2次世界大戦時に、米国の中央情報局(CIA)の前身であるOffice of Strategic Services(OSS)が作成した「Simple Sabotage Field Manual(サボタージュマニュアル)」という文書の意訳・抜粋だ。スパイが敵国組織の中に潜入し、その組織機能を弱体化させるための方法について述べたものである。決断しない、目的が明確でない議論だけが続く“残念な会議”は、まさに組織を弱体化させるのにうってつけの方法だと言えるだろう。