造り方と買い方を連動させろ

 この事例のように、市場環境などの理由で在庫が増えて困っている会社は少なくない。顧客の要求が多様化すると、製品は多品種化し、同時に生産面で少量生産を余儀なくされてしまう。生産の品目数が増えれば、それに対応する原材料の種類も多くなり、倉庫で管理すべき原材料の品目数も増えて、倉庫は手狭になるという構図だ。

 しかし、A氏の事例を振り返ってみよう。「競合のX社の方が、我が社より生産品目が多いはずなのだが、X社は在庫の水準がもっと少なかった」というものだ。確かに、多品種少量生産になれば在庫が増える要因が多くなる。しかし、同じ環境で戦っている競合と比較して劣位に立っているようでは、やはりその会社に何らかの課題があると考えて間違いはない。

 A氏はその真の原因を探りたいと考え、まず在庫の内訳を把握した後、実際に在庫がある倉庫をつぶさに見て回った。すると、1つの問題が浮かび上がった。それは「買い過ぎ」であった。経営的には極めて悪質と言っても過言ではない行為が横行していたのだ。

 資材部は、生産に必要な原材料を確実に調達する使命を持っており、原材料の在庫に欠品は許されない。そのため、資材部の調達担当者には、欠品を起さないために「早めに」、そして「多めに」発注したいという気持ちが働くものだ。

 一方で、「在庫圧縮」という言葉を知らないわけではないので、あまり野放図に買い物をするわけにはいかない。厳しく在庫を管理しながら、ギリギリの在庫状況でギリギリの発注をすることが良いのは分かっている。しかし、需要の想定外の増減や調達トラブルの発生リスクを考えると、どうしても“「少し早めに」、「少し多めに」買ってしまうのである。それによって倉庫が圧迫されても、生産現場で欠品を起すことを思えばまだマシだと考えてしまう。

 そして、もう1つ買い過ぎてしまう理由に「ボリュームディスカウント」がある。たくさん買う方が1単位当たりの価格が下がることが多いからだ。日頃から原価低減への圧力が強い中で、まとめて買えば単価が下がるとなると、製造原価を下げることができるので、コストダウンへの寄与も大きいと考えるのである。

 買い過ぎ、すなわち「今すぐには要らないものを余計に買ってしまうこと」が発生する理由は、安定生産の確保と原価低減だ。いずれも問題というよりもメリットと言えるような内容である。では、何が経営的に大きな問題なのだろうか。3つの問題を指摘しておこう。

[1]現金を食いつぶす
 原材料を買って在庫を増やすというのは、「手元のキャッシュ(現金)を大きく減らす行為」だ。会社経営では、原材料の調達や生産などで先にお金が出ていき、販売してお客様からの支払いを受けてようやくお金が入ってくる。通常、生産を始めてから販売をして入金が完了されるまでには数週間から数カ月はかかるものだ。その間、手元にお金がないと次の生産活動ができない。もし、手元にお金がなくなってしまうと会社は終わってしまう。倒産である。買い過ぎた在庫というのは、「買わなければ手元にすぐに使えたはずのお金があったはずなのに、買ってしまったのですぐにはお金にならない在庫という形に変わってしまったもの」なのだ。

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[2]廃棄損が増えてしまう
 買い過ぎても速やかに注文が入り、すぐに生産に活用して、きちんと販売につながっているのならまだよい。しかし、買い過ぎたものの一定比率は不動在庫になるリスクをはらんでいる。もし不動在庫化して、どこかで廃棄をすることになると、お金をまるまる捨てることになる。安く買ったつもりが、結果的には大損するという構図だ。事実、過剰在庫の多い会社は廃棄損も多く、利益率が低迷しているものだ。買い過ぎ行為を減らし、廃棄損を減らすだけで大幅な利益改善になることも珍しくない。

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[3]在庫は持つだけでコストになる
 在庫は持っているだけで費用が掛かる。保管(倉庫費や光熱費など)や荷役に関する費用が掛かる。また在庫として置いておくと徐々に劣化して品質が下がることもあるし、ホコリをかぶれば余計な清掃工数も発生する。そのため、在庫は時間とともに価値が下がるものと考えるのだ。10万円の在庫に、1年後は10万円の価値はない。1年間の在庫に掛かる費用を考えると、実質的には10万円以下の価値しかないのだ。

 買い過ぎて在庫を過剰に持つということは、「見せかけの原価低減」であり、仕事の質を高めることなく在庫で諸問題を回避するということだと理解してほしい。生産に必要なものを、必要な量だけ、必要なタイミングで買うという、「基本のキ」を改めて考えてもらいたい。これが造り方と買い方を連動させろという言葉の真意だ。